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嘘つき_10
「――それで、居たたまれなくなって追い返しちゃったわけだ?」
小さなバーのカウンターに立ち、ドリンクを作っている男性が呆れたように言う。
結局あれから気まずい空気が僕と周藤の間に流れ、耐えられなくなった僕は体調が悪いからと追い返してしまった。
その後も折角の土曜だと言うのに何かをする気力が生まれず、そのまま夜まで眠り続けた始末。
起きた時、最初に考えたのはやっぱり周藤のことで……ちゃんとお礼言えなかったな、と後悔だけが残った。
幸い目を覚ましたのは二十二時を回る前で、さすがに寝すぎたと体を起こし、このバーへ足を運んだ。
個人経営の小さめのバーはマスター一人で営まれている。
カウンターに立つ彼こそがマスターの漣 伊吹 さん。
柔らかな物腰の漣さんは僕より歳上と言うこともあって、相談しやすい相手。
時間を見つけてはこのバーに通う、今ではすっかり常連になってしまった。
「健気と言うか何と言うか……もういい加減見きりつけたら?」
と呆れた言葉を隣から投げてくるのは金髪のチャラ男。
名前は恵藤 新 と言って、僕と周藤とは大学の同級生だった。
このチャラい風体のおかげで最初こそ印象は悪かったが、話してみると案外常識を持った男だった。
新に僕の気持ちを直接明かしたことはなかったが、鋭いコイツはいつの間にか察していて、こうして時々相談相手になってくれる。
このバーを紹介してくれたのも新だ。
「何年片想いし続ける気だよ?」
「………うるさい。そんなこと言われなくても分かってる」
悪態をついてしまうのは新が紛れもなく正しいことを言っているから。
僕だって、そう思うのに……どうして想いは増えていくんだろう……。
思案する僕の目の前に差し出されたグラス。
薄紫の綺麗なカクテルだ。
「アルコール抑えめで作ってみた。君のためのオリジナルだよ」
漣さんはニコッと微笑み、グラスを僕の方へとスライドさせる。
「えー、佑真 だけズルい!伊吹さん、俺のも!」
「また今度ね」
「ちぇ……つまんないの」
不貞腐れる新を尻目に僕はカクテルを一口飲む。
最初は恐ろしく甘ったるく飲み干したあとはほろ苦い。
正直、美味しいとは言えない味だった。
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