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嘘つき_16
鍵を開けたドアへ周藤が手を掛け、僕の身体を中へと放る。
そのまま周藤自身も中に入ると後ろ手に鍵を閉めた。
「何なんだよ……僕の部屋だ、勝手に入るな」
抗議の声は周藤の耳に入っていないようだ。
周藤は無言のまま僕に詰め寄ってくる。
僕は一歩一歩後退して、ついに背中が壁にぶつかった。
「な、なんだよ。来るなよ!」
逃げ場を失いそのままズルズルと壁伝いに座り込むと、周藤もそれを追うようにしゃがみ込み、両手を僕の横につく。
「――誰でもいいなら、俺でもいいって事だろう?」
「…………ぇ?」
突拍子もない発言に僕は顔を上げて、周藤と目を合わせてしまった。
「――俺が、抱いてやる」
それは一瞬の出来事。
瞬きを終える前、僕の唇に柔らかな感触が重なった。
な、に………?
なんで……僕………周藤とキスしてるんだ?
閉じきれない目は周藤の顔を映していて、唇に当たる感触は間違いなくコイツのものだ。
一度放された唇はじんじんと温かい。
「な、んで……?」
「口、開けて」
僕の言葉なんか全然聞いていない。
再び合わさった唇。
今度は少し強引だった。
息、出来な……っ。
「随分初な反応だな。キスはあんまりしないのか?」
したことないに決まってるだろ!
と心の中では叫ぶのに、息が上がってしまって言葉を上手く紡げない。
「関係、な……いだろ……」
ようやく出た言葉は可愛いげのない台詞。
周藤は何も返さなかった。
でもその代わりとても悲しそうな目が僕に向けられる。
何でそんな顔するんだと言い掛けた口をまた塞がれた。
抵抗しないと、と頭では分かっているのに身体は言うことを聞いてくれない。
どんどん力が抜けていく。
「ふっ……すごい顔」
そう笑う周藤だって見たことない表情してるくせに。
すっかりと力の抜けきった身体が突然宙に浮き、呆けていた頭が急に現実に引き戻った。
僕の身体は周藤に抱えられ、どうやら寝室へ運ばれているようだ。
「おい、本気でする気か……?」
「俺じゃ不満か?」
そんなわけない。
他の誰よりも一緒になりたかった。
生涯で唯一好きになった人。
心が喜ばないはずがない。
寝室に着くと僕の身体をゆっくりとベッドに降ろし、自らも乗り上げてくる。
それから僕の眼鏡を取り去っていく。
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