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嘘つき_21

ガタガタと物音がして、次の瞬間には肩を揺さぶられる。 「――佑真!」 目の前には息を切らした新の姿。 「はぁ……良かった。電話掛けても電源切ってるし、インターフォン鳴らしても出てこないし、心配した。あ、悪い。勝手に入って」 どうやら僕は少しの間放心していたらしい。 新の手が頭に乗せられる。 「どうした?」 途端また涙が溢れ出した。 「新ぁ……っ……」 「ん?」 「うっ……うわああああっ」 「あー、よしよし。分かった、今は好きなだけ泣けよ」 苦しくて、切なくて、言葉に出来ないこの気持ちは……涙となって流れ出て。 新はそれが止まるまでずっと頭を撫で続けてくれていた。 どのぐらいそうしていたかは分からない。 泣きすぎて目が痛くなって、僕はようやく落ち着きを取り戻した。 「はい、目冷やせよ」 新は濡れタオルを用意して僕の目に当ててくれる。 「あ、りがと………」 濡れタオルに視界を奪われてから、新はポツリと呟いた。 「周藤と何かあったんだろ?」 「……………」 「……さっき、下のエントランスで周藤と会った」 周藤が来てた……? まあ、そうか。 あの世話焼きのことだから、あんな切り方したら心配するよな。 「アイツも慌てて来たみたいで息上がってたよ。けど俺を見た瞬間、悔しそうな顔して、そのまま立ち去ってった」 「………………」 「佑真、周藤と何があったんだ?」 ゆっくりでいい、と新に言われて僕は頷く。 「……昨日、周藤を怒らせてしまって……キスされた」 「はぁ!?」 「いや、違うんだ。僕が悪くて……本当に。何だか訳が分からなくなって……」 ぽつりぽつりと昨日の出来事を話始めると新は険しい表情を浮かべた。 「――それで、俺を好きになるって言ったんだ?」 「うん……ごめん。勝手に巻き込んで」 「それは別にいいけどさ」 新は自身の顎に手を添えて思案する仕草を見せる。 それから何かを決意したように、真っ直ぐ僕を見た。 「周藤への気持ちがいらないって本当?」 「え………」 「本当に俺を好きになってみない?」 慰めるための冗談かと思ったが、新の顔付きからそうではないと窺える。 「でも……」 僕は周藤しか好きになったことがない。 他の人を好きになる方法が分からない。 「今すぐじゃなくていい。ゆっくりでいいんだ。俺は待ってあげるよ」 優しく頬に添えられる手はとても温かい。 ともすれば身を全て委ねてしまいそうだ。 「新って、こんないい男だったっけ?」 「おいおい、俺はずっといい男だったぜ?」 鼻高々に言って退ける新が何だか可笑しくて笑ってしまった。 「ようやく笑ったな。やっぱ佑真は笑ってる方がいい」 「キザだな」 「お褒めの言葉として受け取っておこう。……周藤だけが全てじゃない。だからそんなに閉じ籠るなよ。辛くなったらいつでも頼れ」 「………うん。ありがとう」 新を本気で好きになろうと思ったわけじゃない。 それでも今この瞬間、新の言葉に救われたのは確かだ。

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