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嘘つき_22

あの日から数日。 あのあと周藤から連絡が来ることはなかった。 もちろん職場で顔を合わせることもない。 ホッとする心とモヤつく心。 馬鹿だな、と自嘲しつつも湧き上がる感情を抑え込むのは難しい。 それでもここ最近、夜は新と会っているためか周藤のことを考える時間は減ったように思う。 きっとこれで良かったんだ。 どうせ報われやしない。 いずれ来る周藤の幸せな未来を近くで見るのは辛すぎる。 「――佑真?」 「………ぇ?」 ふいに視界が陰り、怪訝な顔をした新が覗き込んでいた。 急に現実に戻った僕は、新といつものバーに飲みに来ていたことを思い出した。 「大丈夫?ボーッとしてたけど」 「あ、ああ……ごめん。少し考え事をしていた」 「ふーん……周藤のこと?」 的確な指摘に胸がドキッと鳴る。 「あ、図星だな。全く」 「ご、ごめん……」 こうして付き合ってくれているのに申し訳無いことをした。 手の中にあるグラスを見つめ、首を垂れると、ぽんっと頭に温かな手が乗せられる。 「怒ってねーよ。ゆっくりでいいって言っただろ?」 「…………うん」 頷けば頭から手が退いていく。 そんな光景を見て漣さんはクスクスと笑う。 「まさか君がそんな優男だったなんてね」 「ちょっと伊吹さん、それどういう意味?」 「ん?そのままの意味だよ」 漣さんの言うとおり、新は優しい。 こいつなら好きなやつを泣かせたりしないんだろうな。 きっとすごく大切にしてくれる。 分かっているのに……どうして僕は、新を好きになれないんだろう……。 「おーい、またボーッとしてる?」 「あ、ごめん……」 「もう謝るの禁止な。俺、怒ってる訳じゃねーし」 「……うん」 「あ、そうだ。じゃあさお詫びじゃないけど、一個頼んでいい?」 「……何だ?」 「今週、デートしたい」 デートなんて僕には無縁の言葉過ぎて、呆気に取られる。 「……デート?」 「そ。土曜日予定ある?」 「いや特には……」 「じゃあ決まりな。場所とかは俺に任せておいて」 頭は疑問符でいっぱいだったけれど、新が楽しそうにしているので、悪くないかと了承の返事をした。

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