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嘘つき_23
土曜日、ソファーに座りながら時計を確認する。
約束の時間まであと少し。
そわそわと落ち着かないのは、普段掛けている眼鏡をしていないから。
これも新からお願いされたこと。
散々迷惑を掛けているし、自分に出来ることならやろうと勇気を出した。
けれど、やっぱり落ち着かない。
鏡の前に立ち顔をまじまじと見る。
いわゆる女顔と言うやつで僕はこの顔が大嫌いだ。
昔、この顔のせいでロクな目に合わなかった。
「………女顔に生まれるぐらいなら、女に生まれたかったな」
そんな独り言を呟いていたら来客を知らせるベルが鳴る。
慌ててインターフォンを確認すればカメラには新の姿が映っていた。
「はい、今下行くから」
『おう、慌てずなぁ』
暢気に聞こえてきた声に一笑して、僕は部屋を後にした。
エントランスへ出れば新がにこやかに僕を迎えてくれる。
「本当に眼鏡、外してくれたんだ」
「まあ、今日だけな」
「えー、ずっとそのままでいいじゃん。せっかく綺麗な顔してるんだしさ」
「嫌だよ。嫌いなんだ、自分の顔」
新が真摯に言ってくれていることは分かる。
それでも嫌いなものは嫌いだ。
「お前なら理由、分かってるだろう?」
「……まあね。でも分かった上で言ってる」
視力が悪いわけでもないのに、わざわざ伊達眼鏡をしている理由を知るのは新一人だけだ。
教えたと言うよりは偶然知ってしまったと言うべきだ。
まあその事もあって僕と新は距離を縮めたのだけれど。
「ま、いいや。せっかくのデートなんだし、辛気臭いのは無しな」
努めて明るく振る舞う新。
きっと気を遣ってくれたのだろう。
「……ああ。今日は何処へ行くんだ?」
「ふふーん、聞いて驚くなよぉ?なんと遊園地だ!」
声高らかに言いきった新を数秒見つめて、僕は頭を抱えた。
「……あのな、もういい大人なんだぞ」
「ん?それが何か問題あんの?」
「……問題しかない。いいか、いい歳した大の男二人で遊園地なんて薄ら寒い。周りから冷ややかな視線向けられるに決まってる」
呆れ返る僕とは反して新はだから何だと首を傾げた。
「別に大人だとか子供だとか、男だとか女だとかって遊園地には関係なくね?周りなんてどーでもいいよ。俺達が楽しめればそれでいいんだって」
「けど……」
「気にしすぎだって。楽しいもんは楽しいって素直になればいい。周りがどう思ったって、それに合わせて我慢する方が損だ」
更に加えて周りに合わせて気持ちを殺すなんて馬鹿のすることだと言ってのけた。
「てことで今日は何がなんでも強制遊園地でーす!楽しんで行きましょー!」
グイグイと背中を押されエントランスを抜けていく。
「わっ!ちょっ、分かったから、背中押すなよ!」
「はいはーい、きびきび歩いてなー。かなーり混むらしいから」
「マジか……なあ、本当に男二人で遊園地?」
「だってデートなんだから二人じゃなきゃだめだろ?」
何を言ってるんだと言わんばかりの顔をされれば僕は押し黙るしかない。
「あ、デートだし手繋ごっか?」
「お断りだ、馬鹿」
「ちぇ、冷てーなぁ。絶対どっかで繋いでやろ」
にっと口角を上げた新は前を歩いていく。
その背中を追いながら改めて新の優しさを実感する。
「……いい男だよな、普通に」
「ん?何か言ったー?」
「いや、何でもない」
分かっているくせに未だ煮え切らない想いを抱えている自分に、一番イラつく。
馬鹿なのは、僕だ……。
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