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嘘つき_29
本当なら走ってこの場を立ち去りたいけれど、腰が抜けた身体はまるで使いものにならない。
「……っ……ふざけんな……ぶさけんなよ……僕は、ずっと……ずっと本気でお前の事好きだったんだ……っ。本気で、僕は……」
「金崎…………」
「――っ!?な、何!?何すんだよ……!」
「暴れんなって。歩けないんだろう?」
密着した体温が僕の腕を肩に回して、支えるように身体を起こされる。
「や、離っ……何処行く気だよ!?」
「金崎の家、すぐそこだから。そこで話しさせて」
「だから僕には話す事なんか――」
「――俺にはあるって言ったろ」
「……これ以上、何があるって言うんだよ……っ」
周藤の返答はなかった。
無言でマンションへと向かっていく。
引き摺られる僕の身体もどうせ無駄だと無抵抗で。
部屋に入った後は寝室のベッドへと座らされて、周藤もその隣へと腰を下ろしスプリングを軋ませた。
「何から話そうか。そうだな…………金崎ってさ、俺が彼女と別れる度に本気で怒ってただろ?俺よりもさ。まるで自分事のように怒ってくれて嬉しかったし、お陰でそんなに悲しい気持ちにならなかったんだよ、毎回さ」
そりゃ怒るに決まってるじゃないか。僕がどんなに望んでも手に入れられないのに……周藤が別れる理由はどれもこれも相手の身勝手なものばかりだった。それなのに、コイツはヘラヘラと笑っていたから……。
「何かそう言うのの積み重ねでさ、いつだったか金崎が恋人だったら良いのになって思った事があって。それからかな、何となく金崎の視線とか仕草とか、もしかしたら俺の事好きなのかなって思う瞬間があって……ああ、ちょうど大学二年の時の最後の彼女と別れた辺りだよ」
言われてみればそれまで彼女を切らした事なかった周藤が、あの子を境にパタリと彼女を作らなくなった気がする。
ただ特定の相手がいないと言うだけで、周りから女性が絶えることはなかったから、深く考えていなかった。
単純に特定の相手を作らずに遊んでいるだけだと、そう思って。
「まあもちろん、それが恋心かって言われると正直ハッキリとは分からなかった。金崎も言った通り俺は女と付き合った事しかなかったし」
「…………知ってる。しかも巨乳ばかりだ」
「うっ………まあ、それは置いといて。恋心ってハッキリとした名前ではなかったけど、俺は金崎の事割と大切に思ってたし、だから大学三年になって急に恵藤と仲良くなった時は……多分ムカついてたんだと思う」
「多分?」
「俺、交友関係は良い方だしどんな奴とも上手くやれる自信あったんだけど、アイツだけはダメだったんだよ。何された訳でもないのに、何か仲良く出来なくて」
確かに俺も知ってる通り周藤と新は仲が良いようには見えなかった。と言うか、どちらかと言えば周藤が避けていたようにも思う。
「今思うとさ、金崎の事取られたみたいで、多分ムカついてたんだよ」
無意識にさ、と周藤は恥ずかしそうに笑った。
「…………何だよ、それ」
「ははは、子供っぽいよな」
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