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嘘つき_33
目を丸くしていた周藤も同じように笑って、それから躊躇いつつも僕に倣ってキスをした。
「………はは、本当だ。泣かないな」
「うん、もう大丈夫」
「……もう一回」
いい大人が子供騙しのようなキスで笑い合う。
馬鹿みたいだと思うけれど、心地良さにその温もりを手放せない。
「キスしたの俺が初めて?」
「……初めて、ではない……」
「流石にそっか。俺全然気付かなかったけど、もしかして付き合ってる奴とか居た?」
「いや、そう言うのは……キスはその、事故って感じで……」
「事故?」
正直思い出したくもない出来事だけれど、周藤の視線から逃れる事は出来ないらしい。
「大学のサークルの飲み会に行った時、酔った先輩が僕を女だと勘違いして襲ってきたんだよ」
「は……?」
「かなり酔ってたし駅までの道で肩貸してたら急に路地裏に引っ張られて、もちろん抵抗したけど僕より全然体格が良くて……」
「もしかして……」
「あ、いやでも未遂で終わったって言うか……新が助けてくれたから」
「恵藤が?ああ、アイツも同じサークルだったっけ?」
それでなくとも険しかった表情が新の名前で更に険しくなる。
「うん。姿見えない事に気付いて探してくれたみたいで」
「ふーん、だから急に恵藤と仲良くなったのか。……眼鏡掛け始めたのもそれが原因?」
「まあ、そんなとこ……」
なるほど、なんて言葉とは裏腹にその顔は全然納得してる表情じゃなかった。
「す、周藤……?」
「待って、ちょっと待って。今恵藤に対して感謝の気持ちと悔しい気持ちでグチャグチャになってるから。うん、とりあえずその先輩にはムカついとく」
「…………ふ、はははっ」
「笑うなよ……俺は真剣に」
「周藤、僕セックスはしたことないよ」
「え、は、セッ……!?」
「周藤と出来る初めてのこと沢山ある。これからいっぱいやっていきたい」
尚も不服そうな周藤の首に腕を回して、ダメだろうかと首を傾げて見せる。
「はぁ……お前分かってやってるだろ、あざとい」
「なーにが?」
「…………分かったよ。大人げなく拗ねるのは止める。だけど二つ約束してほしい」
「?」
「眼鏡、俺と二人っきりの時以外は外さないで。恵藤の前でもダメ」
「ふふ、はいはい」
「もう一つ。困った事があったら今度からは俺を頼って。恵藤じゃなくて俺、絶対力になるから」
「絶対?」
「絶対」
「うん、分かった。周藤、大好きだ――」
きっと僕はもう嘯かない。誰でもいいなんてもう言えない。
周藤しか知らない恋だから、周藤とじゃなきゃ叶えられない。
僕の恋が終わらないように。
どうか隣でずっと笑っていられますように。
【End】
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