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第2話

「おーじさん!この黄色い花何?」 「ピンポンマム……です……」 明るい少年の声に、営業声で返事をしたが、姿を見て言葉をとめた。 「本当に来たのか」 「うん、お金の準備はできた?とりあえず、150万円でいいよ」 「そんなかかんのか?」 「とりあえずだよ。学校は行ったらもっとかかるよ。スマホも買うし」 少年はピンクのガーベラを一つ手に取った。 「これもちょーだい」 「ピンクのガーベラの花言葉は感謝、思いやり」 「へー、じゃあ母さんにあげよう。いくら?」 男は驚いて顔を上げた。 「買うのか?」 「こういうのは買わないと。あんたから母さんにあげたみたいじゃないか」 「確かにそうなるな。200円だ」 「じゃあ100円でいい?」 男は渋い顔をした。どこまでがめついのか、我が子ならば余計に腹立たしい。 「わかった、その代わりお前の母さんの写真を見せろ」 「会わないんじゃなかったのか?」 「会いはしない。顔を見るだけだ。本人か確認しないとさすがに金は払えない」 「顔見たってわかんねーだろ」 少年は気まずそうに、目をそらした。 「写真はないのか?だとしたら俺の子供って話はでっち上げだな」 「違う!あんたは俺の父さんだよ!?信じられないなら遺伝子検査を受けてもいい!」 「そこまでして信じたい話でもない」 男はガーベラを淡いピンクの紙でくるんだ。 「お金」 少年はしぶしぶ100円を払った。 男は舌打ちをして花を渡した。 「特別学割料金だ。お前の作り話も面白かったが、もう来るなよ」 男はひらひらと出ていけというように手を動かした。 「なっ、なんだよ!それがわざわざ会いに来た息子への態度かよ!?」 「可能性として低すぎる」 「どうやったら信じるんだよ、俺があんたの息子だって」 男はレジ台に腕をついた。 「俺もお前が来ないうちに、冷静に考えた。あのニュースを知っててちょっと検索すりゃ情報なんていくらでも手に入る。その情報から話をでっち上げればお金をせしめられる。 本当に信じさせたいなら母親に会わせろ。どうせ違うんだろ」 少年は悔しそうに拳を握った。 「あんたがのうのうと働いて平和に暮らしてる中、母さんはずっと働いて俺の面倒も見てここまで大きくしてくれたのに。あんたは何とも思わねーのかよ!?」 「わかったわかった、そういう作り話はいい……から…」 男は思わず鼻を手で覆った。普段花の匂いはかぎ慣れてるが、この異常な甘い匂い。 「な、なんだよ」 「希望(のぞむ)!?」 声の方を見るとひとりの男が立っていた。 「こんなところまできて何をしてるんだ!」 男はつかつかと入ってきて少年の腕をつかんだ。 「母さん!?なんでいんだよ!」 「うるさい!携帯ももってないのにこんなところまで来るんじゃない!何かあったらどうするんだ!?」 母さんと呼ばれた男を見て、花屋の男は眼を見開いた。 「俺より母さんだろ!?番もいないのになにふらふらしてんだよ!」 「あんたが勝手に遠出するって、あんたの友達が言いに来てくれたんだよ!犯罪者に会いに行くっぽいから危険だって」 「あいつ、なんで話すんだよ。別に俺には何の害もない相手だから大丈夫だよ!」 「それで、その花どうするつもりなんだ?」 少年の母親の怒りは収まらず、迫る勢いで睨みつけた。 「あの、店頭なのでその辺で……」 男が言うと、やっと母親は店主を見た。 しかし、すぐ目をそらした。 「すみません、おじゃましました」 希望と呼ばれた少年は母親に腕を引かれ、店を出ていった。 彼は確かに、あの時の少年。成長して顔も姿も大人びてるが、匂いで分かる。 「待って!」 男は思わず呼び止めた。 「その、その子って」 彼は振り返りしっかりと男を見た。 「俺の子供です」 希望は母親の掴む手が震えてるのに気づき、引っ張った。 「もういいよ、人違いみたいだったし。帰ろう。ごめん心配かけて」 希望は母親の手を引き帰っていった。 男はそれ以上何も言えずにしばらく立ち尽くしていた。

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