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きゅう

白峰君には悪い事をしてしまったな…。 少し急ぎ足で階段を降りる。 田中は俺が保健室にいるって知ってるから、もしかしたら来ているかもしれない…。 なんて、淡い期待に縋ってしまう。 「…でも、仮に居たとしても田中は俺のものにはならない」 そう、だって彼女作ったって言ってたし。 でも、こうなったら長期戦だ。俺の方を振り向くまで、何でもしてやる。もう嫌われても何でもいい。自分勝手にしがみついてやる。 もう諦めない。まだ諦めたくない。 そうこうしている内に保健室までたどり着いた。先生も生徒も…もちろん田中も、誰もそこには居なかった。 …とりあえず、体調が悪いことになってた訳だし、フリだけでもしとくか。 俺は保健室のカーテンを開き、無機質な白いベッドに腰を落とし横になった。 …田中に会いたい。 コンコン 「!?」 「失礼します。中田…俺だけど」 急な展開に色んな感情が込み上げ、鼓動が早くなる。 「田中…今、先生も誰も居ないから…」 「ん、分かった…」 ガチャン ん?ガチャン?何で内側から鍵閉めたんだ? 田中は、スタスタと俺のいるベッドまでくると、さっとカーテンを開けた。 あ…どうしよう。嬉しい。 田中と喋ってる…来てくれた…。 「…何、どうして来たの?」 吐いてでる言葉は可愛くない。 「…クラスメイトに中田に謝れって言われて」 ズキンと胸が痛む。 人に言われて来ました。自分の意思じゃない。この状況でそう言われて傷つかない訳が無い。 でも、来てくれただけでも、喋れただけでも嬉しい…。 俺は田中に微笑みかけた。 「…いい、何も気にしてないから」 「…何も気にしてない?」 え?俺何かおかしな事言った?? 田中は不服そうな顔をしたあと、にっこり笑った。 いや、笑ってるのに、笑ってない。 そんな笑顔だ。 「…ふーん、もしかしてさっきの後輩と付き合ってんの?」 「なっ…!?何で急にそんな話になんだよ」 タイムリーな話題が出てしどろもどろしてしまう。 その様子をみた田中から形容し難いどす黒いオーラが立ち込めた。 でも、ここは押してダメなら引いてみろだ!俺はぷい、とそっぽを向いた。 「俺が誰と付き合おうが田中には関係ないだろ」 「…まあ、そうだけどさ」 「それにお前だって彼女出来たんだろ?俺だって別に…」 「問題だろ。相手は男じゃん」 田中がするりと俺にまたがり、壁ドンするように俺を見下ろした。 そんなに威嚇したって俺は引かんぞ! 「関係ないだろ!」 「は?…俺が何のために…」 その時田中の顔が強ばった。 視線の先は胸のあたりだったが、先ほど白峰君と色々してしまい変にシワがついていたようだ。 居心地の悪い沈黙が空気を飲み込んだ。 そのまま視線は下半身に向けられ滲み出てしまった俺の精液も…。 「…へえ、あの後輩手ぇ早いね」 「ちょっと!白峰君の事そんな風に言わないでくれる!?」 白峰君には凄く恩を感じてるんだから! と、いう意味で放った言葉だったが田中はそう捉えなかったらしい。 「へー、庇うってことはほんとに付き合ってるんだ?」 「っ……!」 田中から、先ほどまでの完璧な笑顔が消え失せ見た事がないくらい冷たい瞳を向けられる。 まるで最低だと蔑むように。 付き合ってないと言おうとしたのに、鋭い眼光に捕えられ喉がつまる。 何で…?そんな顔しなくていいじゃん。 だって別に浮気してる訳でもないし、田中だって彼女いるじゃん。 なのに、何か俺が悪いみたいな…俺何も悪くないじゃん。 ライオンに睨まれた兎の如く、震える口で話す。 「た、なか、は…何でそんな…怒ってんの…?」 「…え?」 「だって…ほんとに、お前に関係ないじゃん…」 だって、本当、その通りでしょ? 俺はお前にフられて、友達かどうかも怪しくて、ほぼ他人みたいな状態だったのに。 じゃあ、たんに俺の事嫌いなのか…? とたんにぶわっと涙が出る。 「そ、そんなに俺の事嫌いなの…?」 「え!?ち、ちょ…!!」 一度涙腺が緩んでしまえばもう止まらない。俺は田中を見つめながらえぐえぐと大泣きした。 「だっ、て…ひっく、怒るっ、し」 「あ〜ごめん、ごめん、ごめん!」 田中は申し訳なさそうにギュッと目を瞑り右手で顔を覆う。 「嫌いっ…じゃ、なきゃっ…ここ、まで…しないじゃっ…ひくっ」 「嫌いじゃない、全然嫌いじゃないんだよ…」 はぁ、と重いため息を吐く田中。 「…ごめん、中田があの後輩と付き合ったって聞いて嫉妬した」 「ひっく、へっ?」 状況に似合わず素っ頓狂な声で返事する。 頭が追いつかない? 今なんて言われたの? 「俺、中田に出会った頃からお前のこと好きだったんだよ」 「へっ?」 顔が真っ赤になってる。ほんとに嘘じゃないんだ。 って、え? 田中が俺を…好き? しかも、出会った頃から………??? 意外とあっさりと欲しかった答えが聞けて、しかも+αの告白に理解が追いつかず、涙も引っ込んでしまった。 「ずっと我慢してた…でもどんどん好きになって、んで、手まで出した。ほんと最低…」 顔を覆う手が震えている。 それは今にも消え入りそうな声で、胸の中に熱いものが込み上げる。 俺はとっさに、がばりと抱きついた。 「…中田、お前もうあの後輩と付き合ったんだろ?こういうことされると俺歯止め効かなくなる…」 「だから…付き合ってないんだって」 「え…?マジ…?」 「正確には、告白されたけど断った。白峰君は俺がそれを選んだならそれで良いって言ってくれたんだよ」 いつの間にか俺の背中にも手が回っていた。 ああ、やっぱり火傷しそうなほど熱い感覚。 でもこの感覚が気持ちいい。 「…良かった」 「でも、田中にはもう彼女…」 「…俺、中田には幸せになって欲しくて、告白された時、男の俺じゃダメだって引いちまった」 あ、俺の事考えての事だったんだ。 え?何それ。 何、なんか…もう好き。 「で、俺に彼女がいるって思わせたら中田もちゃんと彼女を作るって思ったのに…まさかの男だったから…」 「…そんなの、俺は田中が好き。それだけじゃん」 「何それ、かっこよすぎだろ…」 かっこよすぎ、とか言いながら俺の頭を撫でる。その行為に酷く安心した。 「彼女なんて居ないよ…ただのでっち上げ」 「…そっ、か」 「もう、離せない。好き、中田が大好き。俺と付き合ってください」 あ…、これ、一番欲しかったやつ…。 そんなの、答えは決まってるじゃん…。 「はい」 こうして、俺は田中と恋人になり…… 「でも、一つだけ問題が残ってるんだよね。中田」 「え?」 田中は俺をぐい、と押し倒すと、少し複雑な面持ちでこう言った。 「だって、『それ』後輩にされたんだろ?」 「あ…!」 そういえば、乳首だけでイかされてしまったんだった…。すっかり忘れてた、えへ! 田中は俺の指に自身の指を絡めながら、目を細める。 「やっぱり、ちょっとチョロすぎじゃない?」 「………ごめんなさい」 「もう良いよ。俺も悪かったし…上書きするから」 何となく、白峰君と田中は似てる気がする。 なんて考えてたら、田中の顔が近付いてきて、俺達は初めて 恋人 としてキスをした。

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