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第3話

渋谷さん、番契約もまだのオメガだしな。  俺は下唇を嚙みしめた。  俺の本当に父親は初めてのヒートに苦しんでいた母を、無理やりレイプした卑劣なアルファだ。  その結果、俺が誕生した。  俺の中に流れている血の半分はそんな男から受け継いだものなのだ。  その事実を知ってから、俺は常に自分に厳しく生きてきた。  性的なものは遠ざけ、学生時代は勉強ばかりしていた。  父親と同じ様に誰かを襲って傷つけてしまうのが怖くて、なるべくオメガとは関わらないようにしてきた。  学生時代なら付き合う相手も選べたが、社会人になるとそうもいかない。  恐怖心を拭えない俺は、相手は部下なのにオメガだと思うとつい突き放した態度をとってしまう。  上司としてその対応が失格だとは分かっていたが、どうしようもなかった。  出社する時は常に抑制剤を服用していたが、それでも自分のアルファの本能がいつか暴走してしまうのではと俺は恐れてた。  だって俺はあの父親の息子だから。  幼い頃に見た、自分そっくりな男の顔を思い出し、生理的嫌悪から俺は体を震わせた。  ふいにこちらに歩いてくる足音が聞こえた。  ガンと大きな衝撃音が響く。  こっそりと辺りを伺うと、渋谷さんが同僚のベータの女の子と立っていた。  どうやら音がした原因は渋谷さんが思い切りゴミ箱を蹴飛ばしたせいらしい。 「物にあたるのはやめなよ」  同僚はそう言いながら、転がったゴミ箱を元の位置に置きなおしていた。 「あー、マジで成澤のやつムカつく」  憎々し気に自分の名前を吐きだされ、俺は体を縮こませた。

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