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第4話

「人がせっかくコーヒーいれてやったのに、なにあの言い方?口もつけないんだよ。オメガのいれたコーヒーなんて、安っぽくって飲めないとでも思ってんのかな。見た目は金髪碧眼の王子様だけど、中身は最低のアルファだよ。あの課長」 「成澤課長、オメガのこと毛嫌いしてるもんね」  襲いかかってしまいそうな自分の本能を嫌悪しているだけで、オメガのことは嫌いではないし、コーヒーもブラックだったから苦くて飲めなかっただけだ。でもせっかくいれてくれたんだから確かに無理をしてでも飲めば良かった。  なんてことをぐるぐると考えながら、俺は二人の会話を盗み聞きしていた。 「でも成澤課長、すごい出世早いよね。26歳でもう課長職でしょ?ちょっと冷たい雰囲気あるけど、仕事はできるんだろうね」 「はっ。どうせコネに決まってるよ。課長ってどっかの御曹司なんでしょ?実力で出世してるわけないって。あの人協調性ってものが、まるでないじゃん。ああ、あのクソ上司の下で働き続けるの辛すぎる。異動、希望してみようかな」 「でもそうすると剛士さんとも離れるんだよ?」 「それはいやだあ」  悲痛な声で渋谷さんが叫ぶ。  大賀は俺と同じ歳のアルファだったが、何もかも俺とは正反対の男だった。  大賀は身長190㎝もあるが、いつも笑顔を浮かべているせいか、傍にいても威圧感は全くない。  オメガやアルファ、ベータを差別しないで困っている人間がいたら誰にでもすっと手を差し伸べられる男だ。  コミュニケーション能力が高く、営業の成績もいい彼の周りにはいつも人が溢れていた。    経理と営業。  俺と彼は職種は違ったが、入社時点でいくつもの資格を保有していた俺は出世が早く、肩書だけはいつの間にか大賀の上司となってしまった。  俺なんかより彼の方がずっと後輩からも慕われているし、上に立つべき人間なのに。  そんなことを考えるとつい口元に自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。

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