5 / 223

第5話

「でもさあ、そんなに剛士さんのこと好きなら早めに告ったほうが良くない?今彼、珍しくフリーなんでしょ?」 「そう。先週秘書課の子と別れたんだって。急がないとすぐに次の彼女が出来ちゃう。剛士さんのこと狙ってる子多いし」 「じゃあ、くみも頑張らなきゃ」 「でもさあ、告白して振られたら、その後一緒に働くの気まずくない?」 「そうしたら異動希望だせばいいじゃない」 「そっかあ」  足音が遠ざかっていく。  俺は観葉植物の脇から、顔を覗かせた。  休憩スペースには誰もいない。  俺は息を吐くと、ようやく体の力を抜いた。 「大賀、彼女と別れたんだ」  大賀は男女問わずモテるので、彼女が途切れる様子がなかった。  しかし何故か一人と長続きしないようで、誰かと付き合っても半年と経たずに別れてしまう。  そういうことをしていると、とっかえひっかえして遊んでいるイメージを持たれそうだが、別れた元カノでさえ、誰一人彼を悪く言わない。  本当にできた人間なのだろう。    俺は慌てて首を振ると、自分の頬をぱんぱんと軽く叩いた。 「別に俺には関係ないし」  そう呟いても自分の気持ちはごまかせなかった。  入社からずっと俺は大賀のことが気になっていた。  自分と正反対の明るく太陽みたいな男。  大賀の歴代の彼女は皆小柄なオメガで可愛らしい子たちだった。  俺なんて相手にされるわけがない。  相手にされないどころか、俺、大賀に嫌われているし。 「っていうか、この会社で俺のこと好きな人間なんて一人もいないか」  自分で呟いた言葉で、馬鹿みたいにショックを受けた俺は重い息を吐き、立ち上がった。  椅子をもとに戻すと、きりきりと痛む胃を押さえながら職場にむかう。

ともだちにシェアしよう!