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第5話
「でもさあ、そんなに剛士さんのこと好きなら早めに告ったほうが良くない?今彼、珍しくフリーなんでしょ?」
「そう。先週秘書課の子と別れたんだって。急がないとすぐに次の彼女が出来ちゃう。剛士さんのこと狙ってる子多いし」
「じゃあ、くみも頑張らなきゃ」
「でもさあ、告白して振られたら、その後一緒に働くの気まずくない?」
「そうしたら異動希望だせばいいじゃない」
「そっかあ」
足音が遠ざかっていく。
俺は観葉植物の脇から、顔を覗かせた。
休憩スペースには誰もいない。
俺は息を吐くと、ようやく体の力を抜いた。
「大賀、彼女と別れたんだ」
大賀は男女問わずモテるので、彼女が途切れる様子がなかった。
しかし何故か一人と長続きしないようで、誰かと付き合っても半年と経たずに別れてしまう。
そういうことをしていると、とっかえひっかえして遊んでいるイメージを持たれそうだが、別れた元カノでさえ、誰一人彼を悪く言わない。
本当にできた人間なのだろう。
俺は慌てて首を振ると、自分の頬をぱんぱんと軽く叩いた。
「別に俺には関係ないし」
そう呟いても自分の気持ちはごまかせなかった。
入社からずっと俺は大賀のことが気になっていた。
自分と正反対の明るく太陽みたいな男。
大賀の歴代の彼女は皆小柄なオメガで可愛らしい子たちだった。
俺なんて相手にされるわけがない。
相手にされないどころか、俺、大賀に嫌われているし。
「っていうか、この会社で俺のこと好きな人間なんて一人もいないか」
自分で呟いた言葉で、馬鹿みたいにショックを受けた俺は重い息を吐き、立ち上がった。
椅子をもとに戻すと、きりきりと痛む胃を押さえながら職場にむかう。
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