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第6話

 残業時間中に大賀が大きく伸びをしながら、唸る声が室内に響く。 「なあ、今日飲みにいかねえ?」  大賀が大きな声で問う。 「行く、行く。場所どうする?」  大賀の言葉をうけて、彼の周りにはあっという間に人垣ができた。  楽しそうだな。  そんなことを考えながら、俺は目の前のパソコンに数字を打ち込んでいった。  ふとパソコン画面に影が差し、顔を上げると目の前に大賀が立っていた。 「どうした?追加の領収書でもあるのか?」 「いえ、近くの居酒屋にみんなで飲みに行こうと思ってるんですが、課長もどうですか?」  行きたいと反射的に返事をしそうになった。  しかし周りからの視線を感じ、見渡すと、皆一様に渋い顔をしている。  そうだよな。  俺なんかが行ったら、楽しい雰囲気をぶち壊してしまうに決まってる。 「せっかく誘ってくれたのに悪いな。この書類をもう少しまとめたいから、今日は遠慮しておくよ」 「そうですか。まあ、大衆居酒屋なんて課長の口には合わないでしょうからその方がいいかもしれませんね」  顔を上げると、皮肉気に口角を歪めた大賀とまともに目が合い、慌てて逸らす。 「そんなこと」 「おい、みんな行こうぜ。割り勘だからな」 「ええ、剛士のおごりじゃねえのかよ」 「ふざけんな」  俺の言葉は、大賀とその同僚のやかましい騒ぎ声にかき消された。  大賀たちが出て行ってしまった職場は、火が消えたように静かになった。 「別にこの方が集中できるし。書類をまとめたかったのは本当だし」  そう呟きながら、画面上に映る決裁書を見つめるが、内容が頭に入ってこない。  俺はため息をついて頭を振ると、パソコンの電源を落とした。

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