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第7話

 落ちこんだ気分のまま帰宅したくなくて、俺は会社近くの牛丼チェーンに足を向けた。  店内は程よく空いていて、俺は奥の席に腰かけると牛丼の大盛りを注文した。  入社してすぐの頃、その時の上司だった男が、俺の父親が大企業の経営者だということを暴露したせいで、社内ではすっかり金持ちのイメージがついてしまったが、実際の俺の食生活は質素だった。  一人暮らしを始めてから、朝ご飯はほとんど食べないし、昼はコンビニのパンか弁当。夕飯もこうして牛丼かコンビニ弁当ばかりだった。  それに父親が経営者だといっても、それは俺の本当の父親ではない。  レイプされてすぐに俺のオメガの母親は、俺の義理の父と結婚した。  だから俺の戸籍にも、父親の欄には義理の父親、「成澤樹」の名前が記載されている。  酷い目にあった母が自分を心底溺愛してくれる父親と結婚できたのは、本当に良かったと思う。  そして悪夢のような出来事の結果として授かった俺を産んでくれた母を、俺は尊敬している。  父親も愛する母をレイプした男そっくりな俺のことを、我が子と同じ様に可愛がり、愛情をもって育ててくれたことには感謝しかない。  あんな立派な両親に、俺は絶対にこれ以上迷惑をかけたくなかった。  だからこそ、自分の中に流れる実の父親の血が犯罪を起こさないよう、俺はずっと自分を律して生きていかなければならないんだ。  暗い思考は目の前に置かれた丼によって、かき消された。  手を合わせ、大盛りつゆだくの牛丼を頬張る。  つい笑みをこぼしてしまうと、前に立っていたアルバイトらしき男が呆けた眼で俺を見た。  26歳にもなったガタイの良いアルファが、牛丼一つで馬鹿みたいな笑顔になるなんて、きっと薄気味悪く思われている。  恥ずかしくなった俺は、そこから上品に一口ずつ牛丼を食べた。

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