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第10話
「今の仕事が嫌なら、何時でもうちに転職してこい」
「いや、今の経理って仕事気に入ってるし。転職とかないから」
それに転職するにしても絶対に父親の会社は選ばない。
俺はそう決めていた。
戸籍上は俺は成澤樹の長男だが、血のつながりはない。
ここまで育ててもらっただけでも、父にはなんとお礼を言えばいいのか分からないくらいなのに、血のつながりのない俺に父は本気で自分の会社を譲ろうと考えているようだった。
父は「唯希がうちの会社を継いでくれれば安泰だ」というようなことを何度も口にしていた。
親父の正当な後継ぎは弟の冬だと俺は考えている。
冬も立派なアルファで、親父の会社を継ぐ人間としてなんの問題もない。
何よりも冬はちゃんと父さんと母さん、二人と血が繋がっている。
冬が親父の後を引き継ぐときに、無用な争いごとを起こさないためにも、最初から俺は就職先として親父の会社を候補から外していた。
もちろん親父を説得する時はそんな本音を隠し、今の会社でやりたいことがあると嘘をついたが。
「そうか。本当にいつ転職してもいいんだぞ。ちょっとでも嫌なことがあったらすぐ父さんに言え」
「ちょっと嫌なことがあっただけで会社を辞めていたら、どこに就職したって続かないよ」
俺が苦笑した瞬間、背後で扉が開く音がした。
「兄さん」
俺より図体のでかい弟に圧し掛かられて、俺はうめき声をもらした。
眼鏡がずり落ちそうになり、慌てて胸ポケットにしまう。
視力はそこまで悪くないので、裸眼でも日常生活にさほど支障はなかった。
「酷いよ。母さんも父さんも。兄さんが来るなら俺に連絡してくれれば良かったのに」
俺は立ちあがると、抱きついてくるブレザー姿の弟、冬を抱きしめ返した。
久しぶりに会った冬は、ますます父さんに容姿が似てきていた。
金髪に青い瞳をもつ俺は、この家の誰にも似ていない。
実の父親の血を色濃く継いでしまったせいだ。
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