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第12話
「兄さん、今日は泊って行くんだよね?」
ジャージに着替えリビングに戻ってきた冬にまたしても抱きつかれ、俺は返答に困った。
明日は祝日で会社は休みだから、家にスーツを取りに帰る必要もない。
ただ、明日は天気が良さそうだから朝から溜まっていた洗濯物を片付けるつもりだったのだ。
「なにか予定があるなら、車で送って行くぞ。第一その枕を抱えて電車に乗るのは恥ずかしいだろ?」
父さんにそう問われ、俺は苦笑した。
「そうだね。じゃあ、父さん、悪いけど送っていってくれる?」
「お安い御用だ」
父さんがポケットから車のキーを取り出す。
「もう少しいたっていいじゃないか。久しぶりなのに」
ぶすりと呟く冬の頭を俺は優しく撫でた。
「またすぐに遊びに来るよ。お前が真面目に勉強しているか監視しにな」
「うんっ。楽しみにしてる」
冬が俺に抱きつく腕に力を込めた。
「おい、そんなにしたら唯希が潰れちまうだろ?」
父さんが俺と冬を引き離す。
「兄さん、またすぐに来てね。絶対だよ」
冬の口調は妙に切迫感があり、俺は不思議に思いながらも頷いた。
助手席に乗り込むと、車は滑るように発車した。
父さんはいつも安全運転だ。
「冬と何かあったの?」
俺の問いに、父さんの表情が一瞬険しくなる。
「ちょっと進路のことでもめてな」
「冬、海外に留学することになったんでしょ?俺はいいと思うよ。寂しいけど、冬の物怖じしない性格って海外にむいていると思う」
「ああ、俺もそう考えてる」
俺は父さんの返事に首を傾げた。
てっきり海外に留学したいという冬の希望を、父さんが反対しているとばかり思っていた。
でもどうやら違うようだ。
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