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第16話

モノトーンに統一され、物の少ない部屋は大賀のイメージにはそぐわない気がした。 「課長の部屋と比べると随分狭いって驚いているんじゃないですか?」  マグカップを両手に持った大賀はそう言いながら近づいて来て、俺の隣に座った。  大賀はカップの一つを俺の前のローテーブルに置く。 「そんなこと思わないよ。俺の家だって10畳の1Kの賃貸アパートだし」  思いの外大賀との距離が近くて、俺は心臓をばくばく言わせながらそう答えた。  大賀がこちらを向いて目を見開く。 「そうなんですか。意外」  大賀がズッとコーヒーを啜る。 「あっ、セーターなんですが、ネットに入れたら洗濯機でも大丈夫そうなやつだったんで、今洗ってます」 「ありがとう。うちでもがんがん洗濯機で洗っているから問題ないよ。それよりせっかくの休日なのに、悪かったな」 「いえ、俺はむしろ課長の新たな一面が見られてちょっと得した気分です」  馬鹿にしているのかと顔を上げると、思っていたよりずっと大賀が近くにいて、俺は慌てて俯いた。 「コーヒー」 「えっ?」 「全然口を付けてないけど、お気に召さなかったですか?悪いけど、俺の家には1キロいくらの高級コーヒー豆なんて用意していませんよ。インスタントしかありませんから」  素っ気なくそう言われ、俺は唇を噛んだ。  今日の大賀は優しいかと思ったら冷たくて、俺は振り回されている気分だった。 「ミルクと砂糖がないと、コーヒーは苦くて飲めない」  決まり悪げにそう言うと、隣からくっと笑う声が聞こえた。  大賀が立ち上がった気配がする。 「すみません。うちにはスティックシュガーも用意がないんで」  テーブルに紙パックの牛乳と、大きめのシュガーポットが置かれる。 「あっ、ありがとう」  砂糖を三杯入れ、牛乳をどぼどぼと注ぎ足すと、ようやく飲める味になった。  甘さに満足して顔を上げると、びっくりするほど優しい表情で俺を見つめる大賀と目があった。

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