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第17話
硬そうな黒い髪、切れ長の黒い瞳、厚い唇。
止めなければと分かっているのに大賀の顔から目が離せない。
洗濯の終わりを告げる軽やかな音楽で、俺はようやく視線を逸らした。
「課長って本当に綺麗ですよね」
「えっ?」
ぼそりと聞こえた大賀の声に顔を上げると、もう既に大賀は浴室にむかっていた。
「あとは乾燥か」
俺は大賀の呟きを聞きながら、先ほどの言葉が自分の妄想か確かめられずにいた。
「それで、犬飼うんですか?」
また隣に座った大賀に尋ねられ、俺は「ううん」と首を振った。
「飼いたかったんだけど、ほら俺達残業が多いだろ?部屋で一匹で待たせとくのも可哀想だし。だからっていっていきなり二匹も飼えないしな」
「猫ならいいんじゃないですか?実家にいますけど、放っておいてもあいつら自由にやってますよ」
「大賀、猫飼ってたんだ」
「実家でね。うちは5人兄弟で俺は長男なんですが、下がどんどん勝手に拾ってきちゃうんですよ」
「大賀って長男っぽいよな」
「それ、よく言われます。でも課長だって、長男でしょ?」
「ああ。まあ、うちは二人兄弟だけど」
また音楽が鳴り、大賀が立ち上がる。すぐに紙袋を手にした大賀が戻って来た。
「まだちょっと湿っぽいけど、汚れは綺麗に落ちていたから、大丈夫だと思いますよ」
袋を覗きこむと、丁寧に畳まれたセーターが入っていた。
「本当に悪かったな。借りているパーカーは洗って返すよ」
「そんな気にしないでください。でも悪いって思うなら、明日の昼ご飯奢ってくれませんか?」
「昼ご飯?」
「そう、課長がいつも食べている高級ランチとかじゃなくていいんで」
「俺の昼ご飯はいつもコンビニで弁当を買って、近くの公園で食べるだけだけど」
よっぽど俺の言葉がおかしかったのか大賀が唖然とした表情を浮かべる。
気恥ずかしくなった俺は頬が熱くなった。
「この時期に公園なんて寒いでしょ?会議室で食べればいいのに」
「あそこうちの部署の弁当持って来ている奴が結構いるだろ?俺なんかが行って空気悪くしたくないし」
ふいに大賀が表情を険しくする。
「あっ、でも公園もちゃんとコート着ていけばそんなに寒くないんだよ。雨の日はコンビニのイートインスペースもあるし」
俺が両手を振ると、大賀の表情が少しだけ穏やかなものに変わった。
「じゃあとにかく明日は俺とランチしてください。いいですね?」
「分かった」
そんな約束をすると、俺は大賀の家を後にした。
足取りが軽く、明日大賀と何を食べようかと考えるのが楽しかった。
仕事以外で会社の誰かとランチを一緒に食べる約束をするなんて、俺は入社以来初めてだった。
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