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第19話

「大賀ごめん、実は」 「ああ、やっぱり俺と昼飯なんて嫌になりましたか」 「そうじゃない」  会社ではいつも笑顔を絶やさない大賀の無表情が怖くて、俺は慌てて首を振った。 「今日のランチ、牛丼でもいいか?ちゃんとしたお礼のランチは今度するから」  大賀が目を丸くし、吹きだす。 「もちろんいいですよ。俺、牛丼大好きだし」 「そうか。良かった」  俺はほっと肩の力を抜くと、大賀と一緒にエレベーターに向かって歩き始めた。  牛丼屋は会社から少し歩いた場所にあるため、ランチの時間帯に店内でうちの社員を見かけることはほとんどなかった。 「ごめんな。付き合わせて」  店まで歩きながら、改めて謝罪すると大賀が首を振った。 「別に良いですけど、何で牛丼なんです?どうしても今日食べたくなったとか?」 「いや、実はキャンペーンが今日まででさ」  昨日まですっかりそのことを忘れていた俺は、大賀を牛丼屋に付き合わせる羽目になってしまった。 「ああ、ニャンダのお皿が貰えるってやつですか?」 「知ってるのか?」  俺が大きな声を上げると、大賀がくすりと笑った。 「小学生の妹がニャンダが好きなんです。あの皿全種類コンプリートしたよってメールきました」 「全種類ってすごいな」  小学生の妹と同じキャラクターが好きなことは気恥ずかしかったが、大賀は特にそのことを揶揄ったりはしなかった。  店は昼時で混んでいたが、待たずに二人並んで座ることができた。 「今日は牛丼で悪い。今度ちゃんとしたもの奢るよ。パーカーも洗濯したんだけど、まだ乾いてなくて。明日にでも持ってくるな」 「パーカーは代わりになる部屋着が他にあるから気にしないでください。でもじゃあ、また明日のランチ一緒に食べましょうか。パーカーの返却ついでに」 「えっ?」 「嫌ですか?」  俺はぶんぶんと首を振った。 「嫌じゃない。じゃあ明日こそ大賀の好きなもの食べに行こう」 「分かりました。考えておきますね」  そう答えた大賀の口元に小さな笑みが浮かんでいるのを見つけて、俺も嬉しくなってしまう。

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