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第23話
渋谷さんの一件以来、俺と大賀はまともに口を聞いていなかった。
翌日、ランチの時間になると大賀は俺と目があうなり、近くの同僚を誘い、部署から出て行ってしまった。
俺は足元に置いてある大賀のパーカーの入った紙袋をつま先で机の奥へと押しやると、意識して大賀のことを頭から締めだした。
それから二週間。
その日のランチも公園で俺は一人だった。。
公園には子供の影すら見えず、俺は朽ちた木のベンチに座っていた。
北風が肌を刺すように冷たい。
「別に、ちょっと寒いけどなんてことない。一人で飯を食った方が煩わしくなくていいしな」
もそもそとパンを噛みながら、呟く。
渋谷さんは精神的ショックから休職することとなった。
渋谷さんを襲った男は他の事業所に異動となったが、減俸などの処分は何もくだされなかった。
あの時大賀が俺に向けた軽蔑しきった視線を思い出し、俺は肩を落とした。
俺はオメガを差別などしていない。
嫌がるオメガに無理やり襲いかかってしまいそうな自分のアルファの性が呪わしいだけだ。
そう大賀に言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
そんなことできるわけもないのに。
俺は馬鹿げた想像だと自嘲すると、サンドイッチの包みをくしゃりと手の中で丸めた。
抑制剤の錠剤を取りだし、ペットボトルの水で飲み下す。
途端に胃がきりきりと痛んだ。
俺は顔を顰めると、胃を撫でながら立ち上がった。
渋谷さんのことがあってから、俺は処方された抑制剤を勝手に増量して飲んでいた。
主治医が聞いたら怒るだろうが、そうでもしないと俺はまともに出社することができそうもなかった。
部署の扉を開けて、またあの甘い香りがしたら。
そんなことを考えると夜も眠れなくなった。
眠っても夢で見るのは、渋谷さんが襲われたあの光景だ。
夢の中で渋谷さんに襲いかかった男はいつの間にか自分に変わっている。
俺は叫びながら飛び起き、毎晩そこで今の映像が夢だったことを知るのだ。
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