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第25話

 自宅の前にタクシーが止ると、俺は大賀に揺り起こされた。  アパートの二階まで、大賀に担がれるようにして階段を上る。  鍵を開け、玄関に降ろされた俺は這ってベッドを目指した。  靴を脱いだ大賀が慌てて後を追いかけて来る。  大賀に帰るように言うつもりで振りむき、口を開いた瞬間、俺は嘔吐していた。 「課長」  大賀がすぐに傍までやって来て、俺を抱き起こした。 「いいから。お前は帰れ。俺に触るな。お前まで汚れる」  そうだ。  俺みたいな汚れた奴に触れたら、お前まで汚れてしまう。  ぼんやりとした意識で自分がはっきりと何を言ったかも分からない状態だった。 「課長は汚くなんかないですよ」  大賀のそんな呟きだけが耳に残った。    起きると真っ白な天井が視界に入った。   目元を手の甲で擦り、袖口を見ると、スーツではなく着慣れた紺色のパジャマだ。  勢いよく上体を起こした。  途端にぐらぐらとする眩暈に耐えるようにぎゅっと目を閉じる。  ゆっくりと瞼を開き、辺りを伺うと自分の部屋だった。  確か意識を失う前に俺は嘔吐したはずだが、カーペットにその形跡はなかった。  部屋には柔軟剤のような優しい香りが漂い、それだけがいつもとは違っていた。  大賀が片付けてくれたのか。  俺は申し訳なさに、項垂れた。  大賀は俺の汚れたスーツを脱がし、着替えさせたうえで、床まで掃除していってくれた。  多分大賀のスーツも汚れてしまっただろう。  今日は金曜日だから、週明け出社したらまず大賀に謝って。ああ、クリーニング代も渡さなきゃ。  俺の代わりに部長が今日締め切りの書類を決裁してくれればいいんだけど。  俺はずきずきと脈打つように痛むこめかみを指で押しながら、そんなことを考えた。  ふいに玄関の扉が開き、俺は身を硬くした。  入ってきたのはジーンズにセーター姿の大賀だった。

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