26 / 223

第26話

「あれ、課長。起きてたんですか?」  大賀は何の遠慮もなく部屋に上がると、ベッドの横に膝をついた。  俺の額を大きな掌で覆う。 「熱はまだちょっとありますけど、だいぶ落ち着きましたね。解熱剤が効いたのかな」  さらりとした手の感触が心地よくて、そんな場合ではないのに俺は目を閉じてじっと黙っていた。 「具合どうですか?」  去ってゆく大賀の指先にさらりと前髪を撫でられて、俺はびくりと体を揺らした。 「もう大丈夫だよ。薬も飲ませてくれたんだな。ありがとう。床も片付けさせちゃったし……、ああっ、お前スーツは?汚れただろ?」 「そんなの気にしないでください。適当にまとめてあるので、あとでクリーニングに持っていきます」 「いや、気にするって。本当にごめんな。えっと、今着ている服は?」 「近くのスーパーで買いました。ああ、スーパーでレトルトのお粥とか林檎とかも買ってきたんですけど、食べますか?」 「いや、いいから。とにかくもう帰って大丈夫だから。その前にえっと、クリーニング代とその今着ている服の代金と、あと薬とかりんごのお金」  立ち上がろうとした俺の肩を大賀が押さえつける。 「そんなの後でいいですから。病人は寝ててくださいよ」 「でも」  大賀は怖い顔をつくると俺に有無を言わさずに、横になるように促した。  言われた通りにすると、大賀は俺に丁寧に布団をかけてくれる。 「なんでこんなに優しくしてくれるんだ?」  寝起きでぼんやりしていたせいか、俺はぽろりとつい素直に問いかけてしまう。  大賀が目を見開いた。  そうだ、こいつは誰にでも優しい奴だった。  どんなに嫌いな上司でも、ここまで弱っている人間を放っておくなんて、できないのだろう。  それに気づいた俺は小さく微笑んだ。 「大賀。今日はありがとうな。でも本当にもう大丈夫だから。帰ってくれていいよ。諸々かかった金は週明けに返す。面倒をかけて本当にすまなかった」  大賀は俺の言葉を聞いて、じっと俺を見つめた。

ともだちにシェアしよう!