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第26話
「あれ、課長。起きてたんですか?」
大賀は何の遠慮もなく部屋に上がると、ベッドの横に膝をついた。
俺の額を大きな掌で覆う。
「熱はまだちょっとありますけど、だいぶ落ち着きましたね。解熱剤が効いたのかな」
さらりとした手の感触が心地よくて、そんな場合ではないのに俺は目を閉じてじっと黙っていた。
「具合どうですか?」
去ってゆく大賀の指先にさらりと前髪を撫でられて、俺はびくりと体を揺らした。
「もう大丈夫だよ。薬も飲ませてくれたんだな。ありがとう。床も片付けさせちゃったし……、ああっ、お前スーツは?汚れただろ?」
「そんなの気にしないでください。適当にまとめてあるので、あとでクリーニングに持っていきます」
「いや、気にするって。本当にごめんな。えっと、今着ている服は?」
「近くのスーパーで買いました。ああ、スーパーでレトルトのお粥とか林檎とかも買ってきたんですけど、食べますか?」
「いや、いいから。とにかくもう帰って大丈夫だから。その前にえっと、クリーニング代とその今着ている服の代金と、あと薬とかりんごのお金」
立ち上がろうとした俺の肩を大賀が押さえつける。
「そんなの後でいいですから。病人は寝ててくださいよ」
「でも」
大賀は怖い顔をつくると俺に有無を言わさずに、横になるように促した。
言われた通りにすると、大賀は俺に丁寧に布団をかけてくれる。
「なんでこんなに優しくしてくれるんだ?」
寝起きでぼんやりしていたせいか、俺はぽろりとつい素直に問いかけてしまう。
大賀が目を見開いた。
そうだ、こいつは誰にでも優しい奴だった。
どんなに嫌いな上司でも、ここまで弱っている人間を放っておくなんて、できないのだろう。
それに気づいた俺は小さく微笑んだ。
「大賀。今日はありがとうな。でも本当にもう大丈夫だから。帰ってくれていいよ。諸々かかった金は週明けに返す。面倒をかけて本当にすまなかった」
大賀は俺の言葉を聞いて、じっと俺を見つめた。
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