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第28話

 実の父親に会った夜、義理の父親樹は、俺に真実を打ち明けてくれた。  樹の説明では、実の父親、蔵元も悪気があったわけではないと言う。  たまたま母親がヒートになった時にそこにいたのが蔵元で、どちらも抑制剤を持っていなかったために起こった、運の悪い事故だったのだと俺に話した。  運の悪い事故の結果、自分が産まれたのだと知った時の俺のショックは相当なものだった。  両親にとって俺は邪魔者でしかないんだと捻くれた考えを持った時もあった。  しかしその後、蔵元の妻に誘拐され、橋から落とされ死にかけた俺を樹はなんの躊躇もなく、自分の命を懸けて救おうとしてくれた。  そのことがあったから、俺は樹の俺に対する愛情を信じることができた。  蔵元の妻は俺を誘拐した時、今まで蔵元との間に起こったことを詳細に俺に話して聞かせた。  蔵元と妻の間に産まれた子供がベータだから蔵元がアルファの俺を欲しがっているだとか。  高校の時に俺と俺を産んだ母親と蔵元は何の関係もないと蔵元自身がはっきりそう宣言したとか。  自分は俺の母に騙されてフェロモンレイプをうけた被害者だと、蔵元は妻にそう言い続けてきたらしい。  誘拐された直後はショックで蔵元の妻の話をまともに考えられなかったが、後から思いかえすと、俺の実の父親は本当にろくでもない男だった。  俺を孕んだ母を関係ないと見捨てたくせに、自分にベータの子供が産まれた途端、アルファの後継ぎが必要だ。俺を返せと母に迫る。  それだけでも十分に最低だが、自らを被害者などとよく言えたものだ。  フェロモンレイプとは地位の高い男性を狙って、ヒート誘発剤を服用したオメガがアルファを極度の興奮状態、ラット状態に陥らせ、半ば無理やり性行為をする。その事実を盾に慰謝料やらを騙し取る犯罪行為だ。  初めてヒートを迎えた母にそんなことができるわけがない。  その蔵元の言い訳を信じきっている蔵元の妻もどうかしていると俺は思った。  しかしその最低の男と俺は確かに血が繋がっているのだ。

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