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第31話
「朝からなんだっていうんだ。俺のことを心配してくれたのならありがたいけど、もう問題ないぞ。ほら一人でちゃんと風呂だって入れた」
しゃきっと立って見せる俺に大賀がくすりと笑みを漏らした。
「まあ、昨日よりずっと良くなったのは見れば分かりますけどね」
大賀は切ったリンゴを皿に盛りつけ、机の上に載せた。
それはちゃんとウサギ型になっている。
「まあ、とりあえず朝ご飯を食べましょう。どうせ課長昨日から何も食べていないんでしょ?」
「そんなこと」
ぐうとタイミング悪く俺の腹が鳴る。
顔を赤らめ腹を押さえると、大賀の笑い声が聞こえた。
俺はバツの悪い気分で、テーブルとセットの椅子に座った。
むかいに大賀が腰かける。
「課長。サーモンとアボカドのサンドイッチとカモのローストとクルミのサンドイッチ。どっちがいいですか?」
「どっちでもいい」
どうやってもここで朝食を食べていくつもりの大賀に、俺は手を振って答えた。
「そういうの一番困るんですけど」
「じゃあ、サーモン」
手渡されたパックを開け、頬張ると、ちょうどいい塩気ととろりとしたアボカドが口いっぱいに広がった。
空腹の胃が満たされていく。
気がつけば俺は無言で、全て平らげていた。
「ここのパン、どれも美味しいですよね。俺も気に入ってるんです」
目の前に湯気の立つカップを差し出され、中を覗きこむとホットミルクだった。
「すまない」
一口飲んで優しいミルクの甘さに癒される。
「いえ、デザートもどうぞ」
フォークに刺さったリンゴを手渡される。
「ありがとう」
俺はじっとリンゴを見つめた。
「大賀、本当にすごく器用なんだな」
綺麗に剥かれたリンゴを見つめながら呟くと、いつの間にか自分の分のサンドイッチを食べ終えていた大賀がリンゴの一つを手に取り、齧った。
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