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第32話

「物心ついた頃から下の兄弟たちの世話を焼いていたら、いつの間にか家事全般得意になっていたんです」 「ふうん。俺は料理とか全然だめだから、尊敬する」  リンゴを齧ると、甘酸っぱくて爽やかな気分になる。 「でしょうね。キッチンにほこりが積もってましたよ」  指摘され気恥ずかしくなった。 「料理とかしない割に皿とか揃っているし。簡単なレシピから始めたら失敗も少ないと思いますから、試してみたらどうです?」 「食器はニャンダのグッズとして集めているから揃っているだけだ」 「えっ、もしかして大切にしてました?俺、皿もコップも勝手に使っちまった」  俺はふふと笑って頭をかく、大賀を見た。 「俺も普通に使っているから大丈夫。大賀、正直言って最初にこの部屋見た時ひいたろ」  まさか客を招く想定などしていなかったから、俺の部屋中ニャンダグッズで溢れかえっていた。 「いや、妹の部屋も似たようなもんですし」  また小学生の妹と同じにされたと苦笑しつつ俺はホットミルクをもう一口飲んだ。 「大賀、ありがとうな」  目の前で俺とお揃いのニャンダのカップでコーヒーを飲む大賀が、視線をあげた。 「俺が倒れたり、吐いたりしたから心配で今朝来てくれてんだろ?お前、そういうのほっとけなさそうだもんな。あと、昨日は突然自分の出生の秘密なんて告白して悪かったな。お前を無駄に驚かせてしまったんじゃないかと俺も気にかかってたんだ。熱に浮かされて余計なことまで話してしまった。すまない。難しいかもしれないが、聞かなかったことにしてくれると助かるよ」 「聞かなかったことにはできません」  きっぱり言われて驚いた。 「だからこれも言わせてください。俺は課長の実の父親がどんな男であれ、色眼鏡で課長を判断したりしませんから」  凛とした大賀の口調に俺は心臓を撃ち抜かれた気分だった。慌てて大賀から視線を逸らす。

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