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第33話

「そっか」 「そうですよ。食べ終わりました?マグカップ洗いますね」 「いいよ。客にそんなことさせられない」 「いいから。病人は座っていてください」  てきぱきと大賀がごみを分別し、食器を洗い始める。 「昨日言ってた病院、予約しているんですか?」 「ううん。適当に行こうかなって」 「土曜日だと混みませんか?」 「まあね。でも別に今日は他の予定もないし」 「分かりました」  大賀は洗い物を終えると、自分のコートを羽織った。 「課長、保険証は持ちました?」 「ああ、財布に入っているから」  一緒に出ようということなのか。  俺は慌てて支度をすると、大賀と一緒に家を出た。  鍵を閉め、他愛無い話をしながら駅に向かう。  電車に乗り、大賀は一つだけ空いていた座席に俺を無理やり押し込むと、目の前に立った。 「病院どこの駅なんですか?」 「ああ、三つ先。大賀はこれからどこに行くの?」  俺の質問が聞こえなかったのか、答えたくないのか。  大賀は無言で窓から外の風景を眺めていた。  俺はその端正な顔を見上げながら、ほっと息を吐いた。  体調を崩して会社を早退し、大賀に迷惑をかけてしまったのは本当に申し訳ないと思っている。だがこうやってまた普通の同僚のように話せるようになったことが俺は嬉しかった。  それに俺の出生にまつわる告白を聞いた後も、大賀は態度を全く変えない。  色眼鏡で見ないと言ったのは本当の気持ちなんだろう。  大賀のことを見つめているだけで、俺の心臓は早鐘を打ち、頬は赤く染まった。  そんな自分を馬鹿みたいだと思いながら、俺は胸の中の小鳥の羽ばたきの様な音を止めることができなかった。  駅に到着して立ち上がった俺の後を、大賀がついてくる。 「大賀もこの駅に用事があったのか?ここの駅ビル結構店が揃っているもんな」  俺と一緒に改札を通った大賀は、駅ビルなどには目もくれず、俺の隣を歩いている。 「大賀?」  どこへ行くつもりなのかと、俺は呼びかけた。 「俺も一緒に病院に行きます」  まっすぐ前を見たまま、大賀がそう言った。

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