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第35話
病院の待合室でも、大賀は細々と俺の世話をやいた。
スポーツドリンクのペットボトルを買ってきては俺に飲ませ、寒くないかと何度も尋ねる。
俺はその度に大丈夫だから帰れと大賀を促したが、大賀は俺の横にピタリと貼りつき、離れない。
あげくの果てには、採血まで付いてきた。
流石に待ち時間も二時間を超すと疲れてくる。うとうとしていた俺の頭を大賀がそっと支える。
「いいですよ。寄りかかっちゃって」
眠気に抗えずに、俺は大賀の温かい肩に頬を押しつけた。
「課長、起きてください。呼ばれましたよ」
目を覚ますと、膝には大賀のコートがかけられていた。
寝起きでぼんやりしている俺の手をひき、大賀が診察室に連れて行く。
白髪交じりの男性が、こちらを見て柔和な笑みを浮かべた。
この医者は研究所でアルファの抑制剤の開発をしていた経歴がある。
評判もとても良く、たとえ長時間待ったとしても俺は主治医を変えるつもりはなかった。
「成澤さん、この方は?」
大賀の方を見て主治医が尋ねる。
「恋人です」
俺が口を開く前に、大賀が平然と答えた。
俺が否定する前に、主治医はほっと息を吐いた。
「ああ、良かった。今回の検査結果については成澤さんだけではなく、ご家族にも聞いていただきたかったんです。後ほどご家族にもご連絡しようと考えていましたが、パートナーの方に聞いていただけるなら、ご家族までお呼びする必要はなさそうですね」
「先生、俺の検査結果、そんなに酷いんでしょうか?」
家族まで呼ぶつもりだったと言う主治医の言葉に俺は大賀の嘘を否定することも忘れ、青ざめた。
「酷いといえば酷いですね」
そう言われて血液検査の結果が記載された紙を手渡される。
「抑制剤の飲みすぎで肝臓値も白血球の数値も正常値から大きくはみだしています。成澤さん、このままいくとあなた肝硬変になりますよ」
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