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第36話

「そんな……俺、酒も飲まないのに」 「錠剤タイプの抑制剤の服用は当分止めてください。緊急用の注射型の抑制剤は何本かお出しします」 「無理ですっ。先生、俺はあれを飲まないと」  主治医から俺は鋭い視線をむけられた。 「医者としてこれ以上あなたに抑制剤をだすことはできません」  主治医がふと表情を和らげる。 「あなたはご自身がラット状態になるのを極端に恐れている。ですが私があなたを診察してからずいぶん経ちますが、あなたは一度も理性を手放したりしなかったではありませんか」 「それは、抑制剤があったから」 「それだけではありません。あなたは抑制剤の力など借りなくても、本能を抑え込める人だと思いますよ。もし、どうしても抑制剤なしでは生活が苦しいということでしたら、もう一度相談しにきてください。一緒に対処方法を考えていきましょう」  主治医の言葉に俺は力なく頷いた。  俯いた俺の手を大賀がぎゅっと握る。  隣を見ると大賀が小さな声で「大丈夫」と告げた。  俺はなんだか泣きそうになって、大賀の手を握り返した。 「それと成澤さん。あなた普段の食生活ちゃんとしていますか?」 「えっ」 「栄養素を示す値もかなり悪いんですよ。あと骨粗鬆症気味でもありますね。三食きちんと、野菜も乳製品も食べてますか?」 「最近は忙しくてあんまり」  最近どころか一人暮らしを始めてからずっと、食生活はコンビニ頼りだった。  おまけにサラダなんて買わずに、好物の肉と米ばかりの生活だ。  顔を赤くして答える俺の横で大賀が前のめりなった。 「先生、大丈夫です。これからは俺がちゃんと食生活も面倒みますから」  俺はぎょっとして大賀を見た。 「それは良かったです。とりあえず抑制剤を止めて、生活をきちんとすればめまいや頭痛などは治まると思いますよ。成澤さん、頼もしいパートナーの方がいて良かったですね」 「いやあ。あはは」  恋人なんかじゃありません。  そう暴露して両親を呼び出されるのを恐れた俺は、隣の大賀を見ながら乾いた笑みを浮かべた。

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