36 / 223
第36話
「そんな……俺、酒も飲まないのに」
「錠剤タイプの抑制剤の服用は当分止めてください。緊急用の注射型の抑制剤は何本かお出しします」
「無理ですっ。先生、俺はあれを飲まないと」
主治医から俺は鋭い視線をむけられた。
「医者としてこれ以上あなたに抑制剤をだすことはできません」
主治医がふと表情を和らげる。
「あなたはご自身がラット状態になるのを極端に恐れている。ですが私があなたを診察してからずいぶん経ちますが、あなたは一度も理性を手放したりしなかったではありませんか」
「それは、抑制剤があったから」
「それだけではありません。あなたは抑制剤の力など借りなくても、本能を抑え込める人だと思いますよ。もし、どうしても抑制剤なしでは生活が苦しいということでしたら、もう一度相談しにきてください。一緒に対処方法を考えていきましょう」
主治医の言葉に俺は力なく頷いた。
俯いた俺の手を大賀がぎゅっと握る。
隣を見ると大賀が小さな声で「大丈夫」と告げた。
俺はなんだか泣きそうになって、大賀の手を握り返した。
「それと成澤さん。あなた普段の食生活ちゃんとしていますか?」
「えっ」
「栄養素を示す値もかなり悪いんですよ。あと骨粗鬆症気味でもありますね。三食きちんと、野菜も乳製品も食べてますか?」
「最近は忙しくてあんまり」
最近どころか一人暮らしを始めてからずっと、食生活はコンビニ頼りだった。
おまけにサラダなんて買わずに、好物の肉と米ばかりの生活だ。
顔を赤くして答える俺の横で大賀が前のめりなった。
「先生、大丈夫です。これからは俺がちゃんと食生活も面倒みますから」
俺はぎょっとして大賀を見た。
「それは良かったです。とりあえず抑制剤を止めて、生活をきちんとすればめまいや頭痛などは治まると思いますよ。成澤さん、頼もしいパートナーの方がいて良かったですね」
「いやあ。あはは」
恋人なんかじゃありません。
そう暴露して両親を呼び出されるのを恐れた俺は、隣の大賀を見ながら乾いた笑みを浮かべた。
ともだちにシェアしよう!