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第38話
翌日、鼻孔をくすぐる美味しそうな香りで、眠っていた俺は瞼をぴくぴくと動かした。
今日のご飯は母さんの得意なミートボールスープかなあ。
楽しみ。
くふふと笑った次の瞬間、俺はがばっと上体を起こした。
ベッドに座ったままキッチンを見ると、顔を上げた大賀と目があう。
「おはようございます。課長」
「大賀、お前、どうして」
昨日の帰り際大賀に、俺の体調が心配だ。何かあった時駆け付けたいから合い鍵が欲しいと頼まれ、俺はそんなに心配してくれるなんてありがたいと簡単に渡した。
でもまさか緊急時でもないのに、大賀が俺の家に合い鍵を使って上がりこむなんて考えてもいなかった。
「課長、医者から食生活を改善するようにいわれたでしょ。だからっていきなり料理しろといったって無理だろうし」
鍋から汁を小皿に掬い、飲むと、大賀は火を止めた。
「いくつかおかずを作り置きしておきました。冷凍庫に入ってますから、温めて食べてください」
「大賀。こんなことまでしてもらう訳にはいかないよ」
俺は立ちあがると、大賀に近づいた。
キッチンのすぐ側の机にはフレンチトースト、サーモンが載った色とりどりのサラダが既に準備されていた。
「課長。タイミングばっちりですね。ちょうどいんげん豆のポタージュが出来上がったところです」
うぐいす色の液体が入ったカップを二つ、大賀が机の上に置く。
椅子に腰かけ手を合わせる大賀の前に俺も慌てて座る。
「いただきます。課長、嫌いな物があったら、残してくださいね」
大皿からサラダを取り分けながら大賀が言う。
「いや。俺、食べられないものないから……ってそうじゃなくてっ」
声を荒らげる俺を不思議そうに大賀が見つめる。
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