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第41話

「行きたいっ」  間近で目を合わせて大賀に言うと、頭を撫でられた。  大賀も冬と同じ様にスキンシップが激しいタイプなのだろうが、俺はなかなか慣れずに照れてしまう。 「じゃあ、来週の週末行きましょう。昼ご飯も外で食べませんか?俺のおすすめの店が近くにあって」  俺はスマホをいじっている大賀の横顔を見つめた。  大賀は本当に優しくて、一緒にいて楽しい。  でもこんな時間が長く続くはずがないんだ。  大賀に彼女ができたら、俺は寂しくなるだろうな。  今までの経験からもてる大賀に彼女がいない期間は短い。  それまでに一つでも多く大賀との思い出を作れたらいい。  例えリハビリ目的であっても。  そんなことを考えながら、俺は大賀のスマホ画面を一緒に覗きこんだ。  翌朝出社すると机の上に自分の眼鏡が置いてあった。  割れなくて良かったと思いながら、俺は眼鏡をかけると、席に着いた。 「あの、課長。大丈夫でしたか?」  部下のベータの女性がやって来て心配そうな表情で尋ねる。 「課長、ずっと体調悪そうだったから心配してたんです。私にできる仕事があれば遠慮なくふってください」  てっきり嫌われているとばかり思っていた部下からそう言われ、俺は目頭が熱くなる。 「ありがとう。体調は病院にも行って薬も貰ったし、すっかり回復したよ。心配をかけてすまなかった」 「本当に大丈夫ですか?無理しない方がいいんじゃないですか?」  近くに居た営業の男性まで声をかけてくれる。  俺は立ちあがるとみんなに心配をかけたと頭を下げた。  会社では嫌われていると思っていたから、こんな風に自分のことを心配してもらえるのは素直に嬉しかった。    大賀は出社すると真っ先に俺の席に来た。  今日のランチを一緒に食べようと誘われる。  俺は了承すると溜まっていた仕事にとりかかった。  朝からいいことづくめでつい口元に笑みが浮かんでしまう。  俺は気持ちを切り替えると、猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。

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