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第46話

 大賀は自分のコートがみたいと洋服屋に俺を誘ったのに、着いたら俺に似合いそうな服ばかり選び始めた。  大賀は試着室に俺と大量の服を押しこみ、着替えたらチェックするから出てこいと言う。  俺は大賀から手渡された普段は着ない明るい色の服に戸惑いながら袖を通した。  着替えて試着室のカーテンを開けると、若い女性の店員と大賀が待ち構えていた。 「わあ、すっごい似合ってます。かっこいい。綺麗。美人。モデルさんみたい」  お世辞を言いなれている店員の大袈裟なほどの賛辞を軽く流し、俺は大賀を見つめた。 「どうかな?」  ぽかんとしている大賀の表情から、いわれるがままに着たカジュアルなダッフルコートやチェックのシャツが自分には全然似合っていないんじゃないかと不安になる。  大賀は大きく瞬きを一つした。 「すごく可愛い」 「かっ、可愛い?」 「うん。あっ、眼鏡はない方がいいかも。そのコートにジーンズとさっきの紺色のセーター合わせて、学生風コーディネートもきっと似合う」  大賀は近づいてくると、俺の眼鏡を外し、セットしてある髪をわざとくしゃくしゃに乱した。 「学生風って、こんなおっさんが似合うわけない」 「おっさんって課長俺と同い年の26でしょ?まだまだ全然いけるって。カジュアルな格好をすれば、課長なら十代に見えるよ」 「いや、流石にそれは無理がある」  若いと言われて喜んでいいのか、威厳がなく見えるのかと悲しんでいいのか。  『学生に見える』なんてのは流石にありえなくて、大賀の言葉に俺は脱力した。 「とりあえずそのコートと紺のセーターと赤のチェックもシャツも可愛かったからそれも全部ください」 「かしこまりました。他も何かご覧になりますか?」  大賀は俺を無視して、勝手に店員と話を進めてしまう。  まあ、大賀がこんなに褒めてくれるなら、少しくらい散財してもいいか。  シャツについた決して安くはない値札を見つめながら、俺はそんなことを考えた。

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