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そうだ、京都へ行こう
地獄のベッドは気持ちがいい――いろんな意味で。
地獄のというか、魔王城のベッドだ。しかし。しかしである。
「俺はせっかくのリフレッシュ休暇に地獄で何をしているんだ…」
ふかふかの枕に頭をのせながら思わず俺はつぶやいていた。
「何をしているかだと? もちろん俺と仲良くしている」
隣でいい声が響いた。冗談抜きで「良い声」である。うっかりまともに聞くのはお勧めしない。冗談抜きで腰が抜けるからだ。横にいるのは魔王だ。素っ裸である。俺も素っ裸である。こまかいことは聞かないでほしいのだが、ついさっき一戦終わったばかりだ。
「だがな、魔王。リフレッシュ休暇というのは本来、旅行に行ったり断捨離をしたり、ふだんの休日とはちがうことをやるもんだ。リフレッシュ休暇なんだから」
「マキは地獄でリフレッシュできないとでも?」
俺は思わず返答につまる。困ったことに寝ているあいだの地獄落ちは現世のあれこれをリフレッシュするにはかなりいいのである。何しろベッドは気持ちがいいし、そこでやることも(なんだかんだで)気持ちがいいし、あまり認めたくないが魔王はいい声なのだ。だがいつもこうやって丸めこまれてばかりいるのはどうかと思う。ここはあえて歯向かうべきだ。
「いや、リフレッシュ休暇というのは――起きているあいだに何かやってこそだ。俺は何かするぞ。寝ているばかりじゃなくて――そうだな、ここはやはり旅行でも」
「マキはどこへ行きたいんだ」
即座にたずねられて俺はまた返答につまった。
「えっと……」
「どこでも連れて行ってやるぞ」
俺はあわてて答えた。
「いや、俺の旅行先は地獄じゃないから」
「現世でもかまわん」
「あのなあ、おまえ、地獄の魔王なんだろ? 現世に行ったら仕事はどうするんだ」
魔王はぐいっと俺の体を引き寄せた。
「大丈夫だ。現世でも仕事はないわけじゃない。そうだ、京都へ行こう」
いい忘れていたが魔王はイケメンである。それが鼻がくっつくほどの距離で話すと心臓に悪い。
「は?」
「二条城の鬼どもにしばらく面会していない。たまに会ってやらないと退屈して悪さをするからな。マキに行きたいところがないならちょうどいい。どうだ」
「は? は? 鬼?」
「二条大宮の辻の百鬼夜行だ。今は二条城の一部だ」
魔王はむくっと起き上がった。
「よし、出発するぞ。連中にマキを嫁として紹介する」
「おい、魔王、それはいらん!」
「鬼といっても結局俺の配下だ。心配するな」
魔王は凄みのある美貌でニヤッと笑った。
「楽しみだな」
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