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12 文化祭②
その日、悠月の帰りはそれほど遅くならなかった。しかし夕飯は食べてきたからいらないと言う。先輩がファミレスで奢ってくれたらしい。
「何食ったの」
「煮込みハンバーグ。チーズ入ってるやつ」
「それなら俺だって作れるし」
「張り合ってんの？」
「違ぇけど」
悠月はにやにや笑い、カーペットに寝転がってゲームをやり始めた。うつ伏せで、下にクッションを敷く。
「こら、先風呂入れよ」
「んー……てか先生、おれ達のこと知られちゃった」
「はっ！？ し、知られたって、どこまで」
「だってしつけぇんだもん。特に佐々野くんが。おれが先生に対して結構……親しい感じだったから。喋り方とか。普段はおれ、ああいう感じじゃないし」
元々、親元を離れて親戚の元で暮らしていると言っていたそうなのだが、今日の一件でその親戚が俺であるということが知られてしまったらしい。さすがに腹違いの兄弟だとは言いにくくて言葉を濁したので、叔父と甥くらいに思われてるんじゃないかという話だった。
「面倒だから他の人には内緒にしてもらうよう頼んだけど、どれだけ持つかな」
「まぁでも、バレたのがそこまででよかったわ」
「どういうこと」
「だって俺あの時、あの三人が完璧に間男に見えてたからさ。乱交パーティーでもおっ始めるんじゃねぇかって肝冷やしたん――」
瞬間、悠月の切れのある蹴りが脛に入った。俺は涙を堪えてうずくまる。蹴られたところがびりびり痛い。
「い゛っ……てめ、なにす……」
「気持ち悪い妄想を垂れ流すからだ。そんなこと、あの人らがするわけねぇだろ。おれだってごめんだね」
「そ……だな。悪かったよ。偏見と思い込みと決め付けが激しくて」
「ま、あんたがそういう勘違いをしてたとしたら、あの時の言動も合点がいくぜ。顔もめちゃくちゃ怖かったし。閻魔大王みてぇな顔してた。佐々野くんもめちゃくちゃビビってたぜ。あんな七海先生見たことねぇって」
悠月は肩を震わせて思い出し笑いをする。
「それに……ひひ、あの時の先生の顔。バンド？ っつった時の顔、ありゃあ傑作だったな」
今度は声を出して笑う。俺としてはおもしろくない。
「なんで自分とこの学校の生徒の顔覚えてねぇんだよ。ほんとに、困った先生だな」
「んなこと言ったって、覚えてらんないんだからしょうがねぇじゃん。生徒何人いると思ってんだよ」
「だからって二年生の顔と名前くらいは――ひゃっ！？」
悠月はかわいい悲鳴を上げ、ゲーム機の液晶画面から顔を上げた。
「なっ、何してんだ」
「見りゃわかるだろ。お前の尻を揉んでます」
「はぁ？ なに、急に……」
俺は悠月の太腿に跨り、ゆったり目で生地の薄いハーフパンツの上から尻を揉みしだく。服の上からだが、確かな肉の柔らかさを感じる。
「ぁっ……ん、せんせぇ、おれは今、島の開拓をしてんだよ。邪魔しないで」
「勝手にやれば？ これはただのマッサージだからね。今日一日バンド練習おつかれさまー、っていう、俺からの労いです」
「ん……まっさーじ？」
「そ。別にエロいことじゃないだろ？ ゲーム続けてていいよ」
納得したのかしていないのかわからないが、悠月は再びゲーム画面に視線を落とした。軽快なBGMとキャラクターの喋り声が聞こえる。
「その、島作るゲーム？ 俺すぐ飽きちゃったんだけど、楽しいの？」
「っふ……ん……」
「聞いてる？」
尻肉を思い切り掴んでぎゅっと指を食い込ませると、ビクッと悠月の背中が跳ねる。
「ぅあ！ ……な、なに」
「そのゲーム、楽しいのかって訊いてんの」
「べつに、ふつう」
「ふーん」
悠月はもうゲーム画面を見てはいない。クッションに顔を伏せ、はぁはぁと息を荒げている。打てば響くような反応に俺は楽しくなって、もっと際どいところを責めた。布越しではあるが、双丘の谷間を両手でぱくりと割って押し広げ、薄く開いた蕾の表面を指で行ったり来たりと撫で摩る。
「ぁふっ……んん……せんせ、これ……」
「なに？」
「ま、まっさーじじゃ……ねぇだろ」
「んー、まぁ。でも気持ちいいだろ？ マッサージみたいなもんじゃん」
「ぜんぜん、ちげぇ……ぅう……」
俺が太腿に跨っているので悠月は思うように動けない。怒張を擦り付けると悠月は鋭く睨むような目をするが、他に抵抗らしい抵抗はせず力なく体を震わせるばかりだ。
俺の方が焦れったくなり、直接肌に触れたくなって、素早く悠月の服を脱がした。正確には引ん剥いたといったところか。ついでに、汚れるといけないのでカーペットから布団の上へと移動した。
下半身だけ剥き出して、今度はその柔らかい肉に直接触って揉みしだく。潤いのある肌が掌に吸い付く。谷間を割り開いて、両の親指で蕾を押し開く。ぐにぐにと入口を拡げ、浅いところを執拗に擦る。中も外もだんだん濡れて、とろりと緩んでくる。悠月の吐息にも艶が増す。
「んぁっ……はぁ……せんせぇ……」
「ゲーム、セーブした？」
「ま、まだ……」
悠月は覚束ない手付きでコントローラーを持ち、ポチポチとボタンを押す。俺はそれを受け取り、邪魔にならないようテーブルの上に置く。
「挿れるから、ちょっと足開いて」
「このまま？」
「このまま」
悠月を腹這いに押さえ付けたまま、尻だけ少し浮かして挿入した。あっ、と悠月は声を上げたが、すぐに口を噤んでクッションに顔を埋める。
巷では寝バックと呼ばれる体位だ。四十八手だと敷き小股という。根元まで挿入できたら、浮かしていた腰を再び床にぺたりと押し付ける。前がシーツと擦れたのか、悠月はわずかに身を捩らせる。
「は……すげぇこれ……すげぇ締まる」
「んん……せんせ……またごむ、つけただろ」
「当たり前だろ、何のためにいっぱいストックしてると思ってんの。あ、どうせだしお前も着ける？ 漏らすと大惨事だからな」
俺は引き出しを開け、避妊具をもう一個取り出した。
「べつに、いらねぇ……おれが、出さないでイけばいいだけだろ」
「そう言って結局、我慢できないで出しちまうじゃん。これ着けて、今日は思う存分床オナを楽しみたまえよ」
悠月の腰を持ち上げ、手早く装着してやった。いかにもなピンク色が悠月の小さなそこを包む。挿れる先もないっていうのに、こんなものを着けられちゃってかわいそうに。
「おれの言いたいのはこういうことじゃ……おれは、ナマでしたいの」
「また生意気言って」
「ナマだけに……ふふ」
「おい、つまらん駄洒落を言うな。あと笑うと締まるから……」
とん、とん、と奥を叩くように軽く抜き差しすると、悠月はきゅっと唇を引き結んで顔を伏せる。突く度に掠れた声を漏らすが、今日はいつもと比べて一段と静かだ。嬌声というよりほとんどずっと吐息に近い。
「あんまりよくない？」
「ぅんん……」
「どっちだよ」
「んふ……ん、このまま、でっ、いい……」
そう言ってまた顔を伏せる。かわいい声が全部クッションに吸収される。
暑くなってきて、俺はシャツを脱いだ。悠月のシャツも脱がす。背中から腰へ、ついと指を滑らせる。汗でしっとり湿っている。
俺は悠月の背中に覆い被さり、ほくろのある右耳を食んで、顎に手を添えてこちらを振り向かせた。俺が舌を出すとすかさず吸い付いてくる。密着した状態で奥を圧迫するように腰を進め、唾液を絡める濃厚なキスを交わす。唇を離すと、緩んだ口から嬌声らしい嬌声が漏れるが、悠月ははっとしてまたぎゅっと口を引き結ぶ。嬌声も途絶える。
「なぁ、声我慢してんだろ」
「んんっ……してね……っ」
「してるって。いつももっとあんあん言ってんじゃん」
「いって、ねぇっ……」
「言ってるよ。なんで我慢してんの？ 今更恥ずかしがることねぇのに」
「はずかし……わけじゃ……っ」
大きなストロークでずんずん腰を突き入れると、悠月はひぃと悲鳴を上げて悶え、クッションに正面から顔を押し付けた。それでも悠月が欲情し、快感を覚えていることは確かだ。密着しているから心臓の鼓動が直に響いてくるし、結合部の具合もいい。胸に手を回せば乳首が粟立っているのがわかるし、悠月も自ら腰を動かして前のものを床に擦り付けている。
「んん……ふん……んっ……」
しかしいくら激しく腰を打ち付けても、悩ましげな息遣いと大差ない、くぐもった声しか聞こえてこない。それが焦れったくてもどかしくて、無性にイライラした。
「悠月の声、聞きてぇなぁ」
「はっ……ん……だめ……」
「なんでだよ」
悠月は口を閉じたまま、首を左右に振った。始終肩が忙しく上下していて苦しそう。声を出して喘いだ方が余程楽だろうに、なぜそうしないのか不思議だ。
「悠月ぃ、声」
「ぅんん」
「どーしてもだめなの？」
「ん」
しかし俺にはまだ奥の手がある。悠月の背中へ乗り上げたまま片手を口元へ持っていき、上の歯と下の歯の間に無理やり指を突っ込んで、力ずくで口をこじ開けた。奥へ引っ込みかけた舌を掴んで強制的に外へ引っ張り出せば、悠月はもう簡単には口を閉じられない。
「やぇ……ふぇんふぇ……」
「なんで嫌なのか、理由はねぇの」
「や、やぅ……はぁして」
足をじたばたさせて暴れる悠月の踵が、俺の尻や腿にガツガツと突き刺さる。仕方ないので俺も足を使って、行儀の悪い悠月の両脚をがっしりと押さえ付けて捩じ伏せる。
「暴れんなよ。舌でも噛んだらどうすんだ」
口は俺がこじ開けたままだから間違っても噛みようはないのだが。
「何がそんなに嫌なんだ。言ってみ」
「ふぁ、う……やぁ」
「このまま突いてもいいんだぜ。そしたらお前は否応なしに喘ぎ声を俺に聞かせることになるからな。でもやっぱさぁ、自発的にあんあん言ってるお前が俺は見たいわけ。だからこうやって待ってあげてんの。わかる？」
わずかばかり腰を引き、勢い付けてぐっと奥まで押し込む。下腹が悠月の滑らかな尻に包まれて気持ちいい。
「ぁあッ！ ……んぁ、は……」
「ねぇ、もっと声、出せるだろ？」
「はぁ、ぁう……い、ぃぢわる、だ」
涙で潤んだ瞳に睨まれてぞくぞくきた。こんな蕩けた顔で睨んでも男を悦ばせるだけだと経験でわかっていそうなものなのに、こいつはまだ俺に向かってこういう顔をする。かわいいったらない。
開きっぱなしの口からは唾液がだらだらと溢れてくる。下唇がてらてら光って淫靡だ。溢れた唾液は唇から顎を伝い、とうとうクッションに零れ落ちた。ぽたり、またぽたりと、唾液が垂れる。
舌にも唾液が溢れてきてたっぷり濡れている。俺は二本の指で悠月の舌を挟んで扱いた。性器に対してそうするよりはうんと優しい力でだが、悠月は腰をくねらせて善がる。唾液と一緒に嬌声まで漏れてくる。
「あぇっ、やぅ、ゃあぁっ」
「べろ、気持ちいの。腰動いてるけど」
舌だけでなく口の中にまで指を突っ込んで、頬の裏や上顎を撫でたりくすぐったりする。すると悠月はもう我慢できないって感じでカクカクと腰を振り、性器を床にぐりぐりと擦り付ける。声も全然堪えられていないし、唾液は滝のように溢れてきて俺の手を濡らす。
「ゃ、やぅ、やぇ、ふぇんふぇ……」
「嫌な理由言える？」
渋々とだが頷いたので、手を放して口を解放してやった。筋肉が固まってしまったのか、悠月は何度か口を開けたり閉じたりしてから、言いにくそうにもじもじと言った。
「ぶ、文化祭で、バンドやるって、言ったろ？ その……おれ、ボーカル、やるから……喉を大事にって、言われて……」
悠月は耳まで真っ赤に染めて俯く。何がそんなに恥ずかしいのかわからないが、とにかく理由はわかった。却下だ。
閉じかけた悠月の口に再び指を滑り込ませる。驚いた悠月が目を剥くが知ったことではない。あんな、よく知らない男子生徒に頼まれたからって、そのせいでこいつの善がり声が聞けなくなるなんて、そんな横暴が許されるだろうか。いや許されない。
「ゃうっ、ぁっ、なんれ」
「ちょっと、納得できる理由じゃなかったから」
「はぅ、や……ぁあ゛ッ！」
いよいよ遠慮なくピストン運動を開始した。悠月の口を強制的に開かせたまま、ぐっぐと腰を突き入れる。律動に合わせて、痺れるような官能の声が響く。
「あ゛ッ、やら、やぇ、せんせっ」
「まぁでも、ボーカルやるってのは納得だな……お前みたいな超絶不器用が急に楽器なんてできんのかって心配だったけど、歌なら歌えるもんな」
「ゃ゛っ、ひぁ、んッ、ぅう、うっ」
意地悪だ、とさっき悠月に言われたが本当にその通りで、今日の俺は意地悪だし不機嫌だ。
俺の知らないうちに知らないところで知らないやつらと悠月が友達になっていて、しかもまともに部活に入ってバンドまで組んで、その上今度の文化祭はステージで演奏するなんて。それを悠月に秘密にされていて、俺の知らないところで知らないやつらと会って喋って笑い合って歌声を披露して飯を食ってきたなんて。
加えて、その得体の知れないバンド仲間とやらのために悠月は喘ぐのを我慢して、俺のお願いよりも喉を労る方を優先して、せっかくの夜の一時を邪魔されたなんて。そんなのどうにも釈然としない。何となく腹立たしい。
大人げない、子供っぽい独占欲と執着心だ。というのはわかっている。悠月が俺の知らないうちに成長して、だんだん遠くへ行ってしまって、そのうち前みたいに俺を置いてどこかへ消えてしまうのではないかと不安になった。
きっと俺は、このままでいたいんだな。悠月が学校で少し浮いていて、友達と呼べる相手もいなくて、毎日なんだかつまらなそうで、それでも真面目に学校へ通って授業を受けて課題を提出して。そういう日常が変わってほしくない。おれに必要なのは先生だけだよと言ってほしいんだ、心から。
しかし変化も受け入れなくてはなるまい。俺は悠月の恋人であるけれども、同時に兄であり、保護者であり、学校の教師でもある。こいつの学校生活が豊かになるのは正しいことだ。仲の良い友達と遊ぶのも新しいことに挑戦するのも全く正しい。だから変わらないでほしいなんて言葉ではとても言えない。だからこうして行動で示すだけに留める。
「ぁああッ！ もやっ、やぅっ、せん……やぁあッ！」
肉と肉のぶつかる音。粘ついた水音。そしてこの声。甘ったるい悠月の声。うっとりする。
「イク？ イキそうだろ。尻ン中、ぶるぶるしてる」
「はぁあっ、やぁっ、あぅッ、ぅううッ」
上半身は全身で押さえ込んでいるが、足は既に解放してある。しかし悠月は感じ入るのに夢中で、足が自由になっていることに気づいていない。じたばた暴れて俺の背中を蹴ろうなんて考えてもいない。ただ少し踏ん張って、絶頂へ向けて準備している。
「イッていいよ、悠月。前もいっぱい出そうな」
「ひぁッ……あっ、い゛ッ、ぅん゛ッッ――！！」
絶頂の瞬間、指に思い切り噛み付かれた。
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