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よく煮詰めたジャムは、一口で(上)

前へ2 / 9 ページ次へ 「ねえねえゆうちゃん」 「あ?」 「ラブホ行きたい」 「ば、っ、お前、」 陸斗の言葉に慌てる佑介。それもそのはず、今は大学の講義中。後方の席とはいえ、突如隣の人間がこんなことを言えば誰でも焦るだろう。 金曜2限。全学部共通科目のこの授業はいわゆる楽単(=楽して取れる単位)。授業に出て、レポートを出しさえすれば、中身はともかく最低の評価で単位は来るらしい。 一方教授の明朗快活な経済トークは一部の学生に人気だ。そんな授業であるからにして、意欲の高い学生は前方の席へ。当然陸斗のような単位目的の学生は後方の席へ座る傾向がある。 「…後でにしろその話。」 佑介は陸斗をいなして、またテキストとスクリーンへ視線を送る。 「なあ、誰もオレらの事見てないよ。前の子達もスマホして喋ってんじゃん。」 忠告を聞き入れない陸斗に、佑介が舌打ちをして冷たい視線を送る。 「睨まないでよ、こわいなあ。」 台詞に合わない声色で陸斗が呟く。佑介の牽制がまるで効果をなしていないものの、もうこれ以上自分を相手にはしてくれないと分かってか、陸斗は致し方なしにテキストに意味があるのか分からない線ばかり引いて、残りの授業時間を過ごした。 時刻は13時を過ぎた頃。 二人は閑散とした食堂で遅めの昼食をとる。3限を空き時間にしているために、混んでいる昼休みより少し遅らせた方が都合が良い。金曜日はいつもそうしていた。 「げ。4限、休講か…」 佑介がスマホの通知一覧に眉を顰める。 「お!ひゃっひお!やぅほおはあい。」 「え?…ああ。その話もういい。あと口に物入れたまま喋んな。汚い。」 はぐはぐとカツカレーを食べる陸斗が思い立ったように目を輝かせる。お、さっきの、ラブホのはなし、そう言っていると理解できるのは、恐らく佑介だけだろう。 陸斗は怒られたので慌ててカレーを飲み込むと、少し詰まったのか軽く胸を叩く。佑介はそれを見て呆れて、口を歪めたため息をついた。 「ふー。あぶな、死ぬかと思った。」 「落ち着いて食えよ、休講でなおさら時間あるんだから。」 怪訝な目も気にせず陸斗は続ける。 「いや今なんだよ、」 「は?」 「もう午後フリーだし明日休みだし。今なんだよ行くなら。」 「はぁ?」 陸斗のアクティブさは時々佑介にとって厄介に出る。佑介の二度の抗議も虚しく、陸斗は目星をつけていたいくつかの候補の話を始める。 「これはー、照明の色変えれるんだって。こっちは教室っぽいやつ。コスプレとかの撮影にも使えるって書いてあるよ。へー。あとこれプール付き。まあでも急だし初めてだしあんま高いのはなー。」 スマホを見せながら陸斗が一人で紹介していくものの、佑介の視線は一片の意思も持たず陸斗の前髪の辺りで停止していた。こうなった陸斗は大抵何を言っても止まらない。 幸か不幸か今日はバイトもなく、帰ってすることがあるなどと言おうにも、同棲している以上意味をなさず、断る理由は残念ながら見当たらなかった。 もう、痛くなくて気持ちよければいいや。佑介は投げやりな気持ちで陸斗のスマホへ目を移した。 「…ってかんじ!でさ、ゆうちゃんどこがいい?てか空いてんのかなあ」 ほぼ聞いてなかったなと自省しつつ、佑介は綺麗そうな部屋の写真を指す。 「これなんだっけ?」 「じゃあここにする?」 「え、や待て、確認だから」 こういう乗り気な時の陸斗は話の展開に順序がなく、すぐ実行へすっ飛んでいく。 「なんか空いてそうだよ。予約できる。」 「や、どういう部屋だっけっていう」 「綺麗なとこ!行っちゃう?」 「あーもう全然俺の話は聞かない、」 佑介は諦めて事実的な陸斗のチョイスに従うことにした。そこには陸斗に溺愛されているという自覚が少なからずあり、痛い思いをするようなセックスはされないだろうという思惑が働いた。 「予約完了〜。泊まりにした、明日のお昼まで!」 「は?長。…一回家帰るよな」 「うん」 二人は椅子を引き食器を返却する。 大学から、駅と反対に8分ほど歩くと二人の家はある。 初夏の風が心地よく、一時帰宅の道すがら陸斗はえらく機嫌が良かった。 佑介がガチャガチャと鍵を開ける。陸斗がドアを開けて先に佑介を入れる。 ドアと鍵を後ろ手で閉めて、佑介が片足で立ち靴を脱いでいるところを抱きしめる。 「っぶね、なに、」 「ゆうちゃん。やばいオレめっちゃ楽しみ。」 耳元で囁かれると佑介は腕を振りほどいて、気の無い素振りをする。 「いいから準備しろ、お前だいたい時間かかるんだから。」 「冷たい〜」 そそくさと鞄を取り換えに部屋に入る佑介の耳は赤く、下半身はひとりでに期待をした。 「リク、まだ?」 案の定陸斗の支度がもたつく。 「ええ?ゆうちゃん何持った?パンツ?」 「着替えと、まあ歯ブラシはありそうだけど一応持った。充電器は俺持ってる。」 「……ママだ。」 「いいからはやくしろ」 玄関口に座り込んで佑介はスマホをいじって時間を潰す。 「勝負パンツどっちがいいと思う?」 陸斗はパンツを両手に玄関に顔を出す。 「どっちでもいい」 「そんなあ」 しょぼんとして佑介を後ろから抱きしめる。 「ゆうちゃんにかっこいいって思われたい!」 「はいはい、思ってる思ってる。あとパンツ顔に当たってる。離せ。」 スマホから視線をそらさずに佑介が単調に答えると陸斗は勢いよく離れた。 「ごめん、当たったパンツどっち?」 「紫」 「じゃあそっちが今日の運命だね。」 一人で納得してくすんだ薄紫のボクサーを掲げる陸斗に、もう深くはツッコミを入る気もせず、佑介は静かに首を傾げた。それから、そもそも着替えなんだから勝負後に履くのでは?としょうもない疑問が湧いたのを振り払うようにスマホへ視線を戻す。 それからようやく陸斗が鞄を持って玄関へ来た。 「お待たせ。」 「うん。」 陸斗がちゅ、と佑介の横顔にキスをして靴を履くとドアを開ける。 駅まで凡そ14分。しっかり歩くと初夏とはいえ少し暑い。 駅前のパン屋に差し掛かり佑介が聞く。 「朝飯は?」 「部屋に持ってきてくれるやつにした。」 「そんなんあんの、じゃあ1個でいいか。」 佑介は言いながら自動ドアの向こうへ吸い込まれ、陸斗は店の外に取り残される。 「パンは別腹とかゆうちゃん以外で聞いたことないけどなあ…」 陸斗が首を傾げつつ、佑介を待つ間に向かいのコンビニでお茶を2本買う。 「ごめん待たせた」 「や、お茶買った。」 「おー」 「ゆうちゃんのもある、どっちがいい?」 無糖紅茶と麦茶を差し出せば、佑介が紅茶を指す。大抵佑介はこの紅茶ばかり買うのを陸斗はよく知っていた。 「ほい、あげる」 「ありがと。行こ、てか駅どこ何行き?」 「シブヤの方」 佑介が直ぐにスマホを見る。 「……、じゃあと2分で電車来んな」 二人少し早足でホームへ向かう。陸斗がスマホをかざして改札を通ると残高が169円と表示された。 「っぶね、ギリじゃん」 「電車乗ってからチャージな」 「うん、てかそもそもお金下ろさないと」 「カード切れば?」 「しんど」 ホームに着くと、上り電車の案内がちょうど流れた。電車がホームに入る風に髪を乱されながら、陸斗は買ったばかりの麦茶を逆さにして喉の奥まで注いだ。 前へ6 / 9 ページ次へ 「チェックインまで時間あるわ」 「ブラついて飯食う?」 「うん」 二人はウィンドウショッピングを少し楽しんで、ファミレスのドリンクバーと簡単な食事で時間を潰す。学生ばかりの店内はみんな自分たちのことに夢中だった。 よその関心のないのをいいことに、時折陸斗は佑介の名前を呼び、机の下で足を絡ませる。佑介はその度熱を逃がすように足を解き、スマホをいじって無心を装った。 「コーラ取ってきてやるよ。」 佑介が陸斗のグラスを持ちドリンクバーコーナーへ行く。コーラを注いだ後少しだけブラックコーヒーを混ぜる。 「はい。」 「ありがと!ゆうちゃん優しい!」 「うん、」 「ッ!?ゔェ、なにこれ……」 陸斗の笑顔が一気に曇り、反対に佑介はケラケラと笑っている。 「コーラだよ。」 「違うよ!ゆうちゃん飲んでみ?」 佑介は表情を変えずコップの半分を飲むと、再び白々しく続ける。 「コーラだよ。」 「わかったよコーラデス!」 陸斗はコップの中を一気に飲み干し、自らコーラを取りに行った。 そうしてようやく夜が来る。 「会計、後で割ろ。」 そういう陸斗の背中を見つつ、これなら4限のある金曜でも余裕な時間だけどなあ、ぼんやりと佑介は考え席を立った。 ネオンのギラつく表からひとつ入った道、スマホを頼りに二人は歩く。 「こういうラブホだらけのとこ、オレ初めて来た。」 「…俺も初めてだけど、え、場所あってる?」 佑介が陸斗のスマホを覗き込むので、陸斗は画面を佑介の方へ傾ける。 「これ。」 「じゃあこの辺か、っあ、あー。アレ?」 「!そうかも、写真の外観と同じ。」 前へ7 / 9 ページ次へ フロントでチェックインを済ませ二人は鍵に書かれた部屋のドアの前へ着く。 「あ、あけるよ?」 「うん…」 カードキーを差し込み、鍵がかチャリと音を立てる。少し重たいドアを陸斗がゆっくり開くと、ネットで見た大きなベッドが奥にあるのがわかった。 二人の家のベッドの二倍はあるのではと考える。広いベッドで、普段出来ない事をされてしまうのだろうか、それはなんだろうか…佑介はぼんやりとしていた。 「ゆうちゃん?」 「あ、いや」 家と同じように陸斗が佑介を先に部屋に入れて、カードキーで部屋の照明をつけると、閉めた扉にドアガードを立てる。 「えー、オシャレっぽい部屋じゃん!」 「風呂ガラス張り…」 「はは、エロ!」 二人で旅行に行くことはあれど、その際に泊まるホテルとは間取りは似ていても様相が全く異なる。二人はソファに荷物を投げ出し、さっさとスリッパに履き替えると部屋を観察した。 「やべー鏡でかい」 陸斗はドレッサー代わりのデスクに備えられた鏡を覗き込む。それからベッドのサイドチェストに照明のスイッチを見つける。ボタンをそれぞれ押し込むと部屋の電気が全て消えた。 「わ、暗。馬鹿。」 浴室と洗面室はスイッチが異なるようでそちらだけ薄暗い灯りがついている。ガラス張りのために部屋もぼんやりと照らす。 佑介はひとまず洗面室へ行き、照明を明るく出来ないかとスイッチを探す。 陸斗はまだサイドチェストに居た。ひとつ押すとフットライトが点き、ひとつ押すとスタンドライトが点いた。ツマミを隣に従えたひとつは部屋のものだった。ツマミを一番しぼってから部屋のライトをつける。ぼんやりと部屋が灯りを取り戻す。とはいえ比較的暗い。 陸斗はTシャツを脱いでソファに投げ上半身を晒すと、まだ洗面室にいる佑介を追い、洗面台の近くで照明のスイッチを探す佑介を後ろから抱きしめる。 「ゆうちゃん」 耳元で囁いて耳を食んでキスをすると、佑介が身を捩る。洗面台の鏡は部屋の鏡に負けず大きく、ほの暗い中で二人の腰より上を余すとこなく映した。 「なんかこれやだ」 佑介が鏡に映る羞恥に耐えかねて振り返る。 「うん?」 陸斗は佑介をくるりと体ごと自分の方を向かせて、キスをしつつ洗面台へ乗せる。そのままTシャツを取り払うと色白の背中が鏡に映された。陸斗の目の前には佑介の生身の体と、鏡に映された色白の背中があった。普段同時に見ることの無いそれらに陸斗は簡単に熱を上げ、佑介の方へ身を乗り出す。 「ま、待ってリク、シャワー浴びてから、」 しかし陸斗のそのままに始めそうな勢いを察して佑介が抵抗すると、陸斗は意外にも大人しく、一度キスをして離れた。 「わかった、ゆうちゃんお風呂入れて。」 「あ、うん。」 キスはもう少ししても良かったのにと思い、佑介は既に自分も抑えきれない期待を抱いていると自覚する。 出る水の温度を手で確かめながら浴槽にお湯を貯めていく。待ちながら改めて目を凝らすと、浴室内にツマミがふたつあることに気づく。片方をひねると浴室の照明は明るくなった。 「リクー、先シャワーしていい?」 「いいよー」 上半分がガラス張りの浴室で、佑介は屈んで後孔の支度を手早く済ませる。風呂の鏡はよく手入れされているのか、湯気にも曇る様子はなかった。 一方その間陸斗は自分のバッグからいくつかの物を順に取り出していた。手の平大の個包装、そこにはローションバブルバスとかかれている。それと別のローションのボトル。それからコンドームの入ったケース。 それらをまとめて手に持ち、浴室へ向かう。 「ゆうちゃーん。オレも入ってへいき?」 「うんー」 シャワーにかき消されないよう少し声を張る。 洗面台にボトルとケースを置いて服を脱いでいく。 「風呂溜まった?」 「半分ないくらい」 「ちょうどいいや」 浴室に入るなり、ローションバブルバスの中身を浴槽にひっくり返して軽くかき混ぜる。勢いよくお湯を注ぐとみるみるうちに泡が出来上がっていく。 「おおお!」 「おー……リクそんなん持ってきてたの?」 「うん、楽しそうと思って前買ってた」 キュ、と一度お湯を止めて再びシャワーを出すと二人はそれぞれ髪と体を洗う。家でシャワーを浴びるより随分と広い空間で、どちらかと言えば、シャワーを浴びる分には、家の方が雰囲気があるような気が佑介にはしていた。 浴槽へ手をつけて佑介はすぐに声を上げる。 「え!?なんかヌルヌルしてない?」 「うん、泡とローションのやつだもん」 「言えよ…」 二人はもったりとした泡の中へゆっくりとつかる。 「言ってないっけ」 「言ってない」 佑介はなぜか緊張しているのか、家の倍はあるかもしれない大きな浴槽の端に、膝を抱えて座る。 「ゆうちゃん。こっち来なよ。」 陸斗は足を広げ、その間へ佑介の腕を引く。佑介は腕を引かれるまま陸斗の方を向いて正座をした。 「ふふ、ゆうちゃん可愛い。」 陸斗は佑介を抱きしめる。そしてキスをして泡で肩や腕を撫でる。泡状のローションがねとりと肌に絡みつき、手を離すといやらしく糸を引いた。 「今日はキモチいこと沢山シようね。」 「うん…」 ヌルヌルと陸斗の手が佑介の体をなぞる。 「その体勢つらいでしょ、俺の上座っていいよ」 佑介は言われるまま腰を浮かせ、陸斗の膝の上に座る。頭を持ち上げ始めた二人のペニスが自然とあたった。 「よかった。ゆうちゃんのおちんぽ元気になってきた。」 陸斗は目の前にある佑介の乳首を指で摘む。 「うあ、?!」 びくりと体が震え、ペニスが熱量を増す。思わず上げた出すつもりのない声量が、浴室に響いて自分の耳にこびりつく。 耳を塞ぎたいような佑介の感情に構わず、陸斗は二人のペニスを片手でまとめると、ローションを塗りつけて軽く扱く。 「ふっ、んあ、リク…」 「イイ?」 陸斗に顔を見上げられて佑介は自らキスをする。 「なんかヌルヌルして変なカンジ」 佑介は今日、いつも以上に焦らされていた。帰ってからのキス、耳を咥えたり、抱きついたり、ファミレスで足を絡ませたのも、洗面台のもそのひとつだ。 その思うように与えられない切なさを打ち消すように、陸斗の肩に両手を着いてゆるゆると腰を動かす。 「ゆうちゃんッ、すごい可愛い。もっと擦って、俺のちんぽで気持ちくなって。」 「うん。…あ、はッ」 佑介は陸斗の首に腕を回して抱きつくと耳元で切なげな声を発した。 「リク、俺のこと触って」 「うん。」 陸斗は佑介を少し剥がして顎を掴むと深く口付け肩から腕、手を順に触れていく。 かくかくと腰を動かす佑介の口からはしばしば喘ぎ声が漏れ、それが浴室で湿気を帯びて留まった。それ以外の一切を逃がさないように唇を覆い、だらしなく出された舌をぢゅ、と吸い付き舌先で刺激する。 キスをそのままに、両手で乳首を摘んでやると、ぷっくりと主張した。 「やめっ、うあ」 陸斗は佑介の淫らな全てを目に焼き付けるために、薄目のままでキスをする。乳首を暫くいじめた後に、揺れ動く臀を捕まえて揉みしだく。 「ゆうちゃん、立って。」 「ん?」 陸斗に言われるがまま佑介は立ち上がる。 ところどころ泡の着いたままの白い肌を視線でたどると、赤く主張したペニスが、ローションでてかてかと光っていた。 陸斗は佑介の前に膝立ちをして、泡を掬った手でゆるゆるとその主張を宥めた。 「ふぅ、んっ。」 「ゆうちゃん気持ちいいね?」 返事の代わりに佑介はペニスを掴む陸斗の手首を固定するように掴んだ。 「もっと欲しい?欲しいんだ。かわいい。」 陸斗は佑介に少し足を開かせると泡を纏った指を二本、アヌスにあてがう。 「挿れるよ。」 佑介は手を壁について快感に備える。 泡とローションでヌルヌルになった指が一気にアヌスを開く。すんなりと指を受け入れる様子のため、陸斗は早速奥まで指を入れグリグリと動かしては快感の波を呼び寄せる。前立腺を指の腹が擦ると佑介は一際大きく喘いで肩をふるわせた。 「んおっ、」 反対の手で握られているペニスを同時に扱くように、自ら腰をカクカクと動かす。無意識なのか舌を出しディープキスをせがんでいるようにも見える。空いたままの口からだらしなく声と涎が垂れた。 陸斗は焦れてアヌスから指を抜くと、自らも立ち上がった。勢いの良さに重たいお湯がじゃぶりと音を立てる。 立ち呆けたままの佑介の舌を唇で掴むと甘噛みをする。ぢゅ、と鳴らして垂れた唾液を吸い取る。震える肩。それを捕まえ抱き寄せ、臀を撫でて少し突き出させる。ひくつくアヌスにまた一本指を突き立てて出し入れを繰り返す。 「うひ、あっ、あん」 佑介は力が抜けないように必死に陸斗の腰を掴んでいた。 「ゆうちゃん座ってもいいよ。」 見かねて陸斗が風呂の縁へ佑介を腰掛けさせる。 「うん。」 「脚開ける?」 「………恥ずい。」 「今更だなあ…」 膝に手を当てると、言葉に反して抵抗する様子は無いために簡単に脚は開いた。 陸斗は少し身を乗り出して佑介の手を後ろに付かせ、上体を反らすように仕向ける。さらけ出された後孔は先程まで指を入れられていた形を保ったまま、やや乾きかけた泡とローションを纏い艶めかしく光っていた。同じように佑介のペニスもぬらぬらと熱を帯びている。 「1回抜く?」 陸斗はそう言うと両の手に泡の湯を最大限に掬い、佑介の下腹部にばしゃりとかける。 そして右の手の指を二本、アヌスの中へ押し込み、左手でペニスを柔らかく包み込んだ。急激に双方から押し寄せる快感を堪えるため、佑介は眉間に皺を寄せて天井を仰いだ。 「ッ、く、」 しつこく前立腺をこりこりと虐めては、暫しそこを避け、かと思えば前をしごかれて別の快感が押し寄せる。 「ぅう、ひ。ッ、あう!あ!?」 佑介は背中の反りをキツくして快感を逃がそうと抵抗をするが、時折陸斗が手を休めて腰を抱き寄せるとキスをするためにそれも適わない。気づけば風呂の縁に脚ごと上げられ、陸斗の体が間に割り入っているために閉じることも出来ず、佑介はただただ与えられる快楽を享受する他許されなかった。 歯を食いしばって堪える佑介。 「ゔッ、ぐ ……んんっ! ゔぅ、んゔぅー」 「ゆうちゃん、力抜いて。」 熱で潤んだ瞳が陸斗を見下ろす。自分の声が何度も響くのが嫌で振り払うように首を振る。 「ガマンしないでイっていいよ。声、可愛いから出して。」 前と後ろ、それぞれに指と手を動かし、佑介の感じる所を的確に執拗に攻める。 「んぅ、あはッ、あ。ああ゛っ、」 先走りとローションが混濁してぐじゅぐじゅ音をさせる。佑介の絶頂がそこにあるのを見極めた陸斗が、指の届く一番奥を擦ってから前立腺をぐりとなぞって指を引き抜き同時に激しくペニスを扱く。 「ゔぅ、んあああ、ううッ あひっ、あ、あああぁあ゛っあ゛あ、あっ、ああ、あ……」 佑介は息を荒らげて何度も喘ぐと、腰を跳ねさせて達した。飛び出した精液を陸斗は手で受け止めて、舐めたものを飲みこむ。 「、はっ、あ、…はぁ……」 肩で息をしたまま湯にじゃぷんと落ちる佑介。湯の音が浴室に残った自分の酷く感じ入った喘ぎ声を消してくれるような気がした。 陸斗は愛おしそうに佑介を抱き、受け止める。そして佑介の頭を撫でようとするが、手に着いたローションを確認してピタリと止まる。髪に着いたら取れづらいのだろうか、二人にはそれを判断する知識がなかった。代わりに少し冷えた佑介の背中に湯をかけて撫でてやった。 「ゆうちゃん少し落ちついた?」 「うん。」 佑介が陸斗の胸から体を離す。 「リク、交代する?」 「ありがと。」 陸斗がじゃぷりと音を立てて立ち上がると、反対に佑介はその足元に座り込む。 「ゆうちゃん、あのさ、体に泡つけて、オレのちんぽしごける?」 「ん?」 要領を得ない佑介。陸斗は佑介の腕を掴んで膝立ちさせると、その胸へ手で掬った泡をかけて腰を擦り付ける。 「こうやってパイズリして」 「…は?……俺胸ないんだけど…」 「なくていいんだよ。ゆうちゃんの乳首でオレのちんぽしごいて。」 そう言って佑介の両の乳首を指できゅ、と摘んでやる。 「、はッ、ぅ」 佑介は達して間も無い体へ急に与えられた快感にバランスを崩し、立っている陸斗の両足に縋るようにしがみつく。その眼前には反り立つ陸斗のペニスがあった。 佑介はそのままペニスに湯をかけ、陸斗のペニスと腹の間に手を回すと、言われた通り胸板をペニスに押し付けた。胸で挟むことは出来ないため、手と胸板で挟もうという算段である。 ずるずると体を下にずらしては持ち上げるのを繰り返す。 「っ、く、ゆうちゃん、キモチイよ。」 泡はローションで粘度が高いものの少しずつ浴槽に帰っていくため、佑介は何度も自らの体に泡を塗り陸斗のペニスと体に擦り付けた。 実際はフェラチオ、あるいは普通に手で扱いた方が物理的な射精感は高まるのだが、何より恥じらいながらも真剣に自らの体を擦り付けている佑介が陸斗には堪らなかった。 「ここ座って。」 先程の逆で、佑介は陸斗を風呂の縁に座らせる。そのまま上にのしかかるように体重をかけてキスをして体の後ろに肘をつかせると、先程陸斗に自分がされたように、陸斗の体にお湯をかける。 「………うーん。なんかハズい。暗くしていい?」 「いいけど電気の場所わかったんだ?」 「うん、これ。」 浴槽より高いところにあるツマミを捻る。すると先程と別の方を捻ったのか、照明は暗くならず、色を赤に変えた。 「あれ?」 「え?ゆうちゃん何した?」 思わず陸斗も上体を起こしてツマミを確認する。 「2個あるやつ、さっきと違う方いじっちゃったみたい。」 「反対は暗くなんの?」 「多分。」 佑介が確かめるように反対のツマミをひねる。先刻部屋を明るくしたのと逆に捻れば浴室は少し暗くなった。 「でこっちが?」 陸斗はすっかり楽しくなったようで、今一度照明の色合いの変わる方を最後まで一気に捻る。 「あは、真青!」 「なんかやだ、熱帯魚みたい。」 「何それ」 陸斗はじわじわとツマミを戻す。浴室が青から紫になり、赤になり、オレンジのような明るさを取り戻して、最後はうっすらと暖色の元の色に戻った。陸斗は大層満足そうに頷いた。 「ゆうちゃん、ピンクでシて」 「は?」 「さっきの続き。」 そう言いながら陸斗はまたツマミを捻って、浴室を紫と赤の間のいかにも色物と言った奇っ怪な色に染めた。 「ええ…何この色」 「ラブホっぽい」 「ああ。うん、わからないでもないけど、…ヤバいな。」 佑介は苦そうな顔をしてため息を吐く。とはいえ何か言ったとてこう盛り上がった陸斗を止めるのは困難と承知して、大人しく諦める。 「ゆうちゃん。こっちみて。」 ピンクの照明に照らされて佑介の白い肌や頬はいつもより熱く見える。そっと肩に手を添えて風呂の縁に座る自分の方へ引き寄せると深く口付ける。佑介が体重をかけ過ぎないようにと陸斗の胸を少し押し返す。 「あ、体冷た…ごめん。冷えたな、」 佑介はキスを終えると改めて湯を陸斗の体にかけ、自分の体にも湯をかける。ローションがもったりと佑介の体を、肩、胸、腹と流れる。流れきらないうちに何度か体に浴びて、そのまま陸斗の体の上に自らの体を横たえた。 陸斗のヌルヌルとした佑介の体が覆い被さって、全身の感覚がその刺激に震え上がった。 「あなんか、ヤバ、ゆうちゃ、」 互いの体を擦ると時折乳首同士が当たる。 「ん、ッ」 佑介は再び体に湯をかけて、自身の胸を陸斗のペニスに押し付ける。 「ゆうちゃんエロい…」 陸斗がぽそりと呟くと佑介は睨んで黙らせた。エロい、と言われるのをあまり好まないのはいつものことだ。 胸と手でペニスを扱くと空気と混じってじゅぷじゅぷといやらしい音が浴室に響く。何度もヌルヌルとした感覚のまま扱かれて、すぐそこまで来ている射精感。しかし確信までわずかに足りず、陸斗はもどかしくなる。無い胸で擦られているので、物理的な刺激に欠けているのは明白だった。 「ゆうちゃん、あのさ、ぶっかけていい?」 「っ、ヘンな言い方すんな」 「変じゃないよ、ね、あとで綺麗に洗うから」 「…好きにしろ」 あと一歩達するのに足りないのは佑介も承知していた。 「俺の足の間、座ってて。」 陸斗は佑介の乳首を触りながら、自分の手で反り勃ったペニスを握ると何度か扱いた。 「あぅ、や、ちくび、」 「く、デる!ゆうすけ、」 佑介は名前を呼ばれると陸斗の膝に手をついて目をぎゅっと瞑る。 タパパパ 佑介の胸元に陸斗の精液が飛び散る。更に残りを出すように、鈴口を乳首に当てて、竿を扱いた。 トロトロと精液が乳首をいやらしく伝う。 「んんっ。」 佑介は目を開くと顎の辺を指で確かめる。勢いを持って、コントロールを失った分が少し顔にも跳ねたようだった。 「ごめん、」 「ううん」 指についた精液をぺろ、と佑介が舐めとる。 「うぇ、」 味は毎度好ましくは思えず、口にすると少し肩が震える。 「ゆうちゃんそうなるんだから口に入れなくていいのに。」 「いつもリクがシてくれるから」 「その気持ちは嬉しいけど…」 呆れたように笑って陸斗がちょうど乾いた手で佑介の頭を撫でる。 「シャワーしようか。綺麗にしよ。」 陸斗がシャワーヘッドを持ち湯の温度を確かめる。佑介を手招いて自分の前に立たせると、胸に飛んだ精液を湯で流し、その後ボディソープのポンプを押した。シャワーを壁にかけると手の中で軽く泡立てて佑介の胸につ ける。 「いいよ、それくらい自分で出来る。」 「いいから。」 手を引くと佑介を鏡の前に立たせて、後ろから体を撫でていく。シャワーがお湯を垂れ流して浴室の温度を上げる。 「おい、」 「ん、いいから」 「良くないだろ」 抱きしめる形で後ろからボディソープを体に塗られていると、佑介の臀に陸斗のものが頭を持ち上げて当たった。 「ま、待って、さすがに次はあがってからだよな?」 「うん?ゆうちゃん逆上せちゃうからね。」 「よかった。」 佑介はするりと陸斗の腕の中を抜ける。陸斗は惜しがってみせたが、仕方なく諦めると自分の体を洗いながら、浴槽の湯を抜くようにハンドルを捻った。 ズグ、ズゴゴゴ…と色気もへったくれもないローションの流れていく音がする。 「なんか、薄めてあげないとなのかな?」 「わからん。説明なんか書いてないの」 「書いてない、うける。」 二人はシャワーを浴びながら時折そのお湯を浴槽にも分けてやって、それはあまり意味がなさそうだったが、お湯が流れていくのを見守った。 「あ゙ーー。喉乾いた!」 佑介はシャワーで浴槽を軽く流している陸斗を放って浴室を出る。 「ゆうちゃんのお茶も冷蔵庫入れたよ。」 「まじ、ありがと」 「どいたま!」 佑介はバスタオルをふたつ取ってひとつを陸斗に手渡す。 髪を軽く拭いてから体を拭く佑介と、大きく広げたバスタオルで全身を覆って大方の水分を適当に吸わせるだけの陸斗。 二人は服も着ないままスリッパだけ足にかけて冷蔵庫を開けた。 「紅茶とか喉潤わなさそう」 「まあ、普通。」 喉の音がするほどお茶を飲むと、またそれを冷蔵庫へ戻し、佑介はその体でベッドへダイブした。陸斗は洗面室へ持ち込んだローションのボトルとゴムのケースを、念の為ソファに置いたカバンの側へ戻した。

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