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第65話
「正直なとこさ、俺が唯一、心を開いた拓磨だから、史哉も俺と別れて良かったと思ってるし、安心できる」
たちまち、結月の表情が曇った。
「....やっぱり、穂高先生にとって、史哉さんは大切な存在なんだね....」
「....ああ。本当に嫌いなら付き合ってはないよ。ただ、当時の俺には気持ちの余裕がなかった。史哉の家庭の事情もさ、俺はどう解決してやればいいかわからなくて、ストレスになったんだ」
「....史哉さんの家庭の事情....?」
「中学になって知ったんだ。いきなり、史哉の性格が変わって。史哉について調べて貰ったんだ、単独で。幼少期から史哉は両親から虐待を受けて、実の兄からも虐められていたことを知ったんだ」
結月は驚愕で目を丸くした。
「史哉さんが虐待....?虐め?」
「ああ。あいつの兄はαだから。Ωが産まれて気に食わなかったんだろ。中学になって、史哉はその理不尽さに気づき、飽き飽きしたんだろうな」
「そんな....史哉さんのせいじゃないのに....」
「だよな。俺も史哉が居ないときに史哉の親に尋ねても、認めようとはしないし。俺にゴマすりばかりで。多分、拓磨はそこも乗り越えたんだと思う」
「....確かに、史哉さん、最近、変わった。前はなんかつんつんしていて、怖かった...」
結月を膝に抱いた穂高は笑顔になった。
「拓磨のお陰で、本来の自分を取り戻せたんだろうな」
「そっか、そうだったんだ....。幸せになって欲しい....史哉さんも拓磨さんも」
「拓磨と一緒なら大丈夫だよ、史哉は。俺もお前を幸せにする為に負けてらんないな」
「....穂高先生....」
結月は穂高の膝の上、穂高の優しい笑顔を見下ろした。
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