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第76話
「....動けない?」
咲夜ははっきり言わず、口を濁したが、多分、咲夜は自殺したのだろう。
結月は仰向けで結月を見つめる穂高の首元を確認するように見た。
「....どうした?」
朝になりカーテン越しの僅かな光の中、結月は穂高の首元に咲夜と同じ位置に小さいが紫色の痣があることに気づいた。
「....穂高先生....」
やり切れない思いでそっとその痣を指で撫でた。
「え?ああ、これか、生まれつきだよ」
結月の指がどくと、穂高はなんて事はない顔でその痣をなぞった。
穂高はなにも覚えてはないように見え、わざわざ、穂高に教える必要はないと結月は唇を噛んだ。
自分が当時、死んだ後、しばらくして自害した、と今の穂高が知ったら、当時の自分だけじゃなく、現在の穂高にも影響を与えてしまいそうに感じ、結月は敢えて、教えることはしなかった。
「....必ず、探し出すよ、当時の僕が。咲夜のこと。必ず、探し出す」
当時、ずっと昔の穂高である、年下の咲夜に世話になりっぱなしだった。
だからこそ。
看病や料理、家事、咲夜は好んで尽くしてくれたのだろうが...。
穂高はしばらく、ぼんやりと結月を見つめていたが、微笑んだ。
「だといいな。て、何時だ?腹減ったな、朝食にしようか」
「だね、作るよ、和食と洋食、どっちがいい?」
それぞれ、ベッドから起き上がった。
「そうだな...和食がいいかな、一緒に作ろう、結月」
立ち上がり着替えながら穂高は言い、結月も、うん、と笑顔で答えた。
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