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第104話
結月を1人に出来ず、史哉と拓磨は2人が住む、拓磨の自宅に誘った。
「子供もいるし、お邪魔じゃないかな...」
「そんな訳ないだろ。うちの母親、賑やかなの好きだし、多分、子供も好きな筈だよ」
運転する拓磨はそう言ってくれたが...結月は不安だらけだ。
3人の男の子を奥さんと育て上げ、
「子供好きですから、爺にもなって、赤子と触れ合えるとは光栄で御座います」
と有坂はミルクを作ったり、咲夜にミルクをあげたり、オムツを替えたり、あやしたりと時折、好意的に手伝ってくれるのだが...。
咲夜は、きゃっきゃと可愛らしく笑いながらも、有坂の顔は蹴るわ、髪は掴む、すぐに膨れっ面になり、大泣きしたかと思えば、また笑う。
「す、すみません、有坂さん」
と、結月は心底、謝罪するが、
「いやいや、とても元気な子で何よりで御座いますね」
結月に悟られまいと、咲夜に揉みくちゃにされた髪の毛で笑ってみせる。
結月はほとほと、自宅で有坂に頭が上がらない状態なのだ。
「着いたよ、結月」
後尾座席で咲夜の寝顔を見つめ、俯いていたら、助手席の史哉が振り向いた。
久しぶりの拓磨の実家だ。
穂高と訪れて以来。...その穂高は今日はいない。
リビングに通され、
「あら、おかえりなさい、神社は...。あら、結月くん、お久しぶりね」
「...お久しぶりです」
結月は咲夜を抱いたまま、小さく頭を下げた。
「この子が咲夜くん?イケメンくんね」
指しゃぶりしたまま、咲夜は拓磨の母の優しい眼差しを見上げる。
「...ごめんなさいね、結月くん。なかなか、お見舞いにも行く事が出来なくて。私と来たら、行ったら泣き出してしまいそうで...一番、泣きたいのは結月くんなのに、て、勇気が出なかったの」
伏せられた拓磨の母の瞳はとても穏やかながら、悲しげだった。
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