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第105話
「でも、結月くんの元気な姿が見れて、とても嬉しいわ。遅ればせながら、出産おめでとう、結月くん」
朗らかな拓磨の母の優しい笑顔と言葉に結月は胸が熱くなった。
「ありがとうございます...!」
「今日は結月の好物、めいいっぱい作ってよ、母さん」
「そうね、結月くん、何が好き?」
「え、えっと...」
「今日はもう泊まりなよ、結月」
史哉の言葉にまた、結月は、えーっと叫んだ。
「そ、その、子供もいますし」
「あら、私は咲夜くんも大歓迎よ?オムツやミルクは史哉くんの出産に備えてあるし」
「で、でも...」
「いいからいいから、座って、結月、ほら」
拓磨に背後から肩を押され、広いダイニングテーブルの一角に座る。
咲夜は拓磨の母の腕の中でいつの間にか、指しゃぶりしたまま、眠っていた。
「賢い子ね、きっと」
「い、いえ、それが、泣くわ、暴れるわ、手の付けようがないというか...」
「きっと伝えたい事があるのに、伝えられなくて歯がゆいだけよ」
優しい瞳、穏やかな声で、咲夜を見つめたまま、拓磨の母が言い、結月は確信に触れた気がした。
拓磨の母と史哉とで、夕飯作りに取り掛かっている中、結月は拓磨とダイニングテーブルで紅茶とコーヒーを嗜んでいた。
不意にリビングのドアが開いた。
「ただいま...」
拓磨の兄、βでありつつ、バイセクシャルでプレイボーイの優磨だ。
「お、お久しぶりです、優磨さん」
「久しぶり...大変だったね、いや、今もか」
以前とは違う雰囲気に面食らった。
「穂高さんならきっと大丈夫だよ。俺さ、穂高さん、怖かった、けど、尊敬してもいたんだ。男らしいな、穂高さんみたいになりたいなって。でも、諦めてた」
結月の目の前に座った優磨が珍しく真剣な顔で語った。
「俺さ、今、すげー好きな人いるんだ。5つ上で、てんで相手されないんだけどさ。穂高さんが目覚めたら報告したいんだ」
溌剌とした優磨の笑顔に結月は目を見開きながらも、希望を見た気がした。
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