105 / 116

第105話

「でも、結月くんの元気な姿が見れて、とても嬉しいわ。遅ればせながら、出産おめでとう、結月くん」 朗らかな拓磨の母の優しい笑顔と言葉に結月は胸が熱くなった。 「ありがとうございます...!」 「今日は結月の好物、めいいっぱい作ってよ、母さん」 「そうね、結月くん、何が好き?」 「え、えっと...」 「今日はもう泊まりなよ、結月」 史哉の言葉にまた、結月は、えーっと叫んだ。 「そ、その、子供もいますし」 「あら、私は咲夜くんも大歓迎よ?オムツやミルクは史哉くんの出産に備えてあるし」 「で、でも...」 「いいからいいから、座って、結月、ほら」 拓磨に背後から肩を押され、広いダイニングテーブルの一角に座る。 咲夜は拓磨の母の腕の中でいつの間にか、指しゃぶりしたまま、眠っていた。 「賢い子ね、きっと」 「い、いえ、それが、泣くわ、暴れるわ、手の付けようがないというか...」 「きっと伝えたい事があるのに、伝えられなくて歯がゆいだけよ」 優しい瞳、穏やかな声で、咲夜を見つめたまま、拓磨の母が言い、結月は確信に触れた気がした。 拓磨の母と史哉とで、夕飯作りに取り掛かっている中、結月は拓磨とダイニングテーブルで紅茶とコーヒーを嗜んでいた。 不意にリビングのドアが開いた。 「ただいま...」 拓磨の兄、βでありつつ、バイセクシャルでプレイボーイの優磨だ。 「お、お久しぶりです、優磨さん」 「久しぶり...大変だったね、いや、今もか」 以前とは違う雰囲気に面食らった。 「穂高さんならきっと大丈夫だよ。俺さ、穂高さん、怖かった、けど、尊敬してもいたんだ。男らしいな、穂高さんみたいになりたいなって。でも、諦めてた」 結月の目の前に座った優磨が珍しく真剣な顔で語った。 「俺さ、今、すげー好きな人いるんだ。5つ上で、てんで相手されないんだけどさ。穂高さんが目覚めたら報告したいんだ」 溌剌とした優磨の笑顔に結月は目を見開きながらも、希望を見た気がした。

ともだちにシェアしよう!