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第108話
食後。風呂も済ませ。
ダイニングテーブルでは、拓磨と兄の優磨がワインを飲み、雑談。
ソファに座った結月は咲夜を抱き、脚をプラプラさせている。
肩肘を突き、読書をしていた史哉が退屈そうな結月に気がついた。
「結月も小説でも読む?」
史哉に拓磨の父の書斎を案内された。
「たくさん、色んな本があるから、ゆっくり選ぶといいよ」
そうして、咲夜を抱き、書斎に足を踏み入れた。
入口近くのデスクにも、乱雑に幾冊もの本が折り重なり、3つの背の高い本棚には小説から専門書、あらゆる本が敷き詰められている。
咲夜もおとなしく、ゆっくり歩きながら、本の背表紙を見つめた。
最奥の本棚に辿り着いた時だった。
壁に掛けられた絵画に呆然となった。
とても美しく見事な絵画だが、そうでは無い。
満開の桜の大木に片手を添え、見上げる少年の姿。長めの黒髪が風で泳ぎ、凛とした瞳が桜を仰ぐ一枚の絵画。
「...咲夜」
昔の自分、前世の自分の和樹が描いた物だ。
桜に見蕩れる少年に、デッサンを描かせて欲しいと頼んだが、冷たくあしらわれたものの、こっそり、咲夜を描いた。
常連客が欲しがったが、絶対にこの絵は売らなかった。
手放したのは自分の余命が僅かだと知った時。
そして、売り上げ金はこの絵も含め全て、咲夜に託した。
この絵を、この絵を、この子に見せれば...。
結月はごくり、唾を飲み込んだ。
咲夜の生まれ変わりかがわかるかもしれない...。
横抱きに抱いていた咲夜を結月は絵画が見えるよう正面を向かせた。
言葉も、息も潜め、反応を待った。
咲夜の目が丸くなった。
咲夜の小さな手が震えながら、絵画に触れようとし、結月は手伝い、絵画に近寄らせると、小さな手が絵画に触れた。
宝物でも見つけたかのように咲夜が触り...そして、静かに泣き始めたが...
瞼が閉じるくらい目を細め、涙を伝わらせて、大泣きし始めた。
あーあーあーあーっ...!
書斎に響き渡る、悲痛な咲夜の泣きじゃくる声に、結月はいたたまれなくなった。
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