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第4話

 好き放題自分の体内で蠢く彼の指をなんとか排出したいのだが、抵抗はほとんど意味をなさない。それどころかそこに感じる妙な感覚に不随意に筋肉が蠢いてしまって、逆に彼の指を締めつけてしまう。 「ほら、おとなしくして。暴れると尻に力がはいって、指が動かせないだろうが」 「動かさなくていいですっ。はやく、出してっ」 「んー、じゃ最後にしっかり流そうな」  やっと引き抜かれた指は今度はその入り口にあてがわれ、(すぼ)まりをぐいと左右にと押し開いてきた。 「やぁっ⁉」  強めにしたシャワーを押しつけられると、これもまたいままでに感じたことのない感覚をともなって、お湯が体内に入ってくる。 「ああぁーっ」  ある程度体内にお湯が送られたあとは、その水が体内から自然に排出されるのをまった彼は、全て出きったところを見計らって、またおなじように尻にシャワーを押しあてた。 「や、やめてくださっ、いっ」  なんとも表現しがたい感覚に眩暈までしてくる。浮遊感に足もとが覚束なくなりへたりこみそうになるが、そのたびに強い腕で引きあげられてなんどもおなじことを繰り返された。そうしているうちに限界が訪れた。  視界が朱に染まるなか一切の聴覚を失い、つぎには身体からすべての力が抜けてしまう。崩れ落ちそうになる肢体を自分ではどうすることもできなかった。  キーンと耳鳴りがするなか、脳裡がオレンジ色にスパークしたのを最後に、神野の意識は途切れていった。  まぁ、ひとことで云うのならば、近藤に「騙された」のだろう。  篠山がどういうつもりでこんなことをしたのか考えたくはなかったが、脳の回路の浅い部分から、ひとつ、またひとつと、とりとめもないそれが浮かんでくる。  命を粗末にしようとした自分への非難なのか、それとも彼の単なる趣味なのか。これが彼の趣味だとするのなら、だったら近藤はこの男の共犯者だったのだろうか。  上澄みだけの思考では思いつくのもそんなところだ。  浴室から出ると、簡単に身体を拭かれてベッドに転がされた。気を失ったあとの自分が篠山になにをされたかなんて、想像したくはない。正気を取り戻したときには、神野は浴室のタイルのうえで彼に抱きかかえられて、洗髪されていた。「出るぞ」とひっぱって立たされたときの下半身の違和感に閉口し、そしていまに至る。  裸のまま不貞腐れてベッドに横たわっていると背後でマットが(たわ)み、バスローブを纏った篠山が身を寄せてきた。 (結局、このひとはそういう、セックスの対象が男でもいいってひとなんだ)  どうせもうすべてが嫌になって、なにもしたくなくて、なにも考えたくなくて家を出てきていた。最期にこの男にどう扱われようが、そんなのももうなんでもいいのだ。 (好きにさせたあとは、さっさと死んでやる)  神野は瞼を下ろすと吐息した。そんな自分の姿が篠山の官能の琴線を擽っているとは、露とも思わない。  肩を掴まれ仰向けにされたので目を開ける。すると自分を覗きこんだ彼が、にやりと笑っていた。 「どうだ? 風呂入ったらさっぱりしたんじゃないか?」 「そんなわけないでしょう」  ふいっと顔だけを背けた。 「あんだけ喚いた甲斐あって、ちょっとは口が緩んだみたいだな。そろそろ話す気になったか?」  身体は固定されていて逃れられない。この男に自分が抗ったところでどうにもならないと、風呂場で充分思い知ったばかりだ。 篠山は神野よりも一回りはでかいし、そうでなくても自分は体力もないし、非力なのだ。 「んー。じゃぁ、ま。重たい口を軽くするために、いまから発声練習な」  訳のわからないことを云った彼にいきなり両脚を抱えあげられてぎょっとしたが、それでも彼がつぎにすることの予想がついて、ぎゅっと目を閉じた。 「んあぁっ」  ぐいっと篠山の指が、尻の中に侵入してくる。 「痛っ」  ぐにぐにと中を揉みこまれて、狭い器官がぎしぎしする感覚に眉を寄せる。 「だよなぁ。まぁ、こっちの口はさっきけっこう解したんだけど。お湯って潤い奪うからな……。ちょっと待っていろよ」  ベッドを下りた彼は、部屋の隅のバゲージラックからドラッグストアの袋を取りあげると、ちいさな箱をベッドに放ってよこした。  カラフルなその箱は神野もよく知っているものだ。ただし、アルバイト先のコンビニで取り扱うことがあるだけで、自分が使用したことはない。だから梱包の中身まではどんなものかは知らないでいた。  いかがわしいものからぎこちなく視線を外し、頭に浮かびあがるいまからのことを打ち消していく。『なにも考えない』と自分に云い聞かせ、ふたたびベッドに上がってきた篠山に腰を抱き寄せられると、神野は身体の力を抜き、そっと目を閉じた。 「あっ……あああっ」 「んー。そうそう。いっぱい感じろよな」  神野は陰部に篠山の性器を()しこまれ、なんどもなんども深く貫かれていた。  穿たれるたびに身を震わすほどの快感に襲われて、ひっきりなしに声がでる。その淫らに濡れた声を、抑えることができない。  はじめのうちは様子を見ながら揺するような動きをしていた篠山だったが、彼の手管で二度ほど射精させられたあたりで、彼は神野の身体がうまく快感を(とら)えだしたことに気づいたらしい。それからはもう容赦がなかった。  リズミカルにずんずんと脳に響くほどの律動で腰を送られると、おなじリズムでぞくぞくと官能が体内を駆け抜けていく。そしてそれとは別で、手足のさきには断続的にびりびりと電流が走っている。  彼を享受する器官と張りつめたペニスは、甘く疼いてじわりじわりと粘液を滲ませた。どちらも熱く、蕩けていきそうだった。  もちろん男である神野が、彼を受け入れている部分に性的な粘液を出すことはない。篠山のものが出入りするたびに、ピチャピチャと音を立てさせているのは、はじめにたっぷりと含まされたローションだった。  最奥の窄まりにチューブ状のものを差しこまれて中身を注入されたときは、液体の冷たさと不快感に鳥肌を立てたが、そのあと中を指でかき混ぜられたときの心地よさと官能を誘う水音に、若い身体は本人の意思を裏切ってすぐに熱くなっていったのだ。 「ああんっ、あっ、あっ……あんっ」 「どっちのお口もリラックスして、ゆるっゆるだな」  耳の後ろを舐めながらそんなことを云われるとたまらない。神野はぶるぶると腰を震わせた。屹立した先端から溢れた液体はまるで蜂蜜のように粘度をもって、ぬったりと糸をひいて滴っていく。それが自分の腹にポタッと落ちると、なんども達して敏感になっていた身体には、それだけでも強い刺激になった。 「ふっ、ふぁっ、はあぁんっ」  彼の動きにあわせるかのように彼自身を絞りこんでいた器官が、にわかに痙攣しだす。するとそれに耐えられなかったらしい篠山の身体が硬直する。 「―んくっ」 「ひあんっ」   自分の中で射精する彼の胴震いが腰に伝わってくると、神野も釣られるようにして極まり吐精していた。  はぁはぁはぁ。  篠山が自身を抜いて身体を離した。抱えあげていた腿や腰をベッドに下ろすときには丁寧にしてくれたが、際限まで開かされていた脚のつけ根はひどく痛んだ。視界の端で彼が避妊具を外しているのが見えたが、二度目となると目を逸らす気にもならない。関節の痛みのせいで身体を動かすのが億劫だという理由もあるが、短い時間で自分がいままで知らなかった淫猥な世界に、すっかり慣れさせられてしまったようだ。おそらく初心者が経験するには、彼とするセックスは濃いものだ。  疲れすぎて指すら動かせない。それなのに、篠山に弄ばれた肉体は一向に彼を求めることを止めないで、時折ひきつけるように痙攣していた。下半身の窄まりがひくつき、その奥が彼のものをもっと絞りたいと訴え、きゅうきゅうしている。 「ンあっ……」  止まない快感に喘ぎ声が、零れてしまうほどに。 「治まらないのか?」  処理を終えて下着を穿いた篠山が、顔を覗きこんできた。 「ちょっと脚開いて」

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