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二、慕情の行く末

「見てヤト、桑の実がいっぱいあったよ」 「すげぇな、それだけあればお前も暫くは空腹にはならないだろ」 「うん。でも、僕だけじゃなくてヤト達も食べてね。神様だって食事して力を蓄えなきゃ」 「まぁ、お前よりは頑丈だからな。さて、帰ろうぜ。父様(ととさま)が待ってる」 「うん」 あれからさらに二年の月日が経ち、イオリも先日、十五になった。 食が細いせいか、犬神のヤトやオラガと比べると随分と細く貧弱そうな体躯ではあったが、それでも病気一つせずに山で健やかに暮らしている。 十五にもなれば、麓の村里にいる人間はいつでも婚姻を結べる(よわい)だとヤトから聞いて、イオリはここ数日ずっとソワソワとしていた。 両性具有である彼は、育ての父であるオラガに密かにずっと心寄せている。報われる事がないと知りながらも、初めての初潮の折にオラガに深く触れられてから、彼はずっとオラガだけを想っていた。 生まれてすぐに贄として犬神に捧げられた身なのだから好き勝手に弄ばれてもおかしくないようなものを、オラガもヤトも真逆の対応ばかりする。 まるで壊れ物を扱うように、大事に自分を育ててくれている。 そんな二人に自分は一体何が出来るのだろうかと、イオリはずっと考えてきた。 栄養のある食事も、安全な寝床も必要なのは人間である自分の方で、彼らにはあまり喜ばれそうにもない。 唯一、彼らに喜ばれる事といえば、自分が健康に育っていくことだ。 (オラガは、何をしたら喜ぶんだろう…) ぼんやりと物思いに耽ると、決まっていつもオラガの事ばかりに意識が向いてしまう。そうして顔が熱くなり、泣き出したいほどに恥ずかしくなってくる。 二年前のあの晩以来、オラガは自分にだけよそよそしい態度をとる事も増えた。少しずつ見えない距離が開きだして、だんだんとオラガが遠くに行ってしまう心地がする。 恐らくはこれが巣立ちや親離れの前兆なのだろうと頭で理解しつつも、イオリはひどく心細かった。 甘えたり縋ったりではなく、ただ傍に寄り添いたい。そんなささやかな願いすら叶わず、大人になった自分はこのまま一人で生きていくことになるのかもしれない。 (オラガに…もう一度だけでも抱きしめられたい) 首を(もた)げる淡い期待を打ち消すようにして、イオリは大きく(かぶり)を振った。

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