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慕情の行く末 3

翌朝、まだ日が昇らぬ薄暗い山の中を イオリは一人でとぼとぼと歩いていた。 二人が起き出して来ないのを確かめて、彼はそっと(むろ)を後にした。このまま宛もなく山中を彷徨い、その果てに命を終える覚悟はあった。それほどまでに、オラガの傍にいる事が苦しかった。 自分が愛される事はないのだと、昨夜の彼の言葉で決定的になった。 心のどこかで覚悟もしていたのに、いざオラガの口からその言葉が出された途端に、目の前が一気に真っ暗になった。 自分の居場所が刹那の間に崩れ落ちて消えたような心地がした。 ただの我儘だとは分かっている。情愛がなくとも、家族として波風立てずにオラガの傍にいられるだけの心構えが自分にはどうしても持てなかった。 傍にいればいるほど、恋しさが募る。どうやっても抑えきれない恋慕の情に、このまま押し潰されてしまいそうで怖かった。 「…っ」 不意に、腹の奥がどくんと波打った。 毎月の月のものが来る直前、いつもこうして無闇に発情してしまう。じわじわと痺れるような疼きが下腹部から背筋を伝って這い登ってきた。 「は…あっ」 甘い声が漏れて、イオリは堪らず自身の身体をぎゅっと()き抱いた。このまま発情が治まるまで、どこかで休まなければ―― 覚束(おぼつか)無い足取りでふらふらと辺りを詮索して、ようやく小さな洞穴を見つけた。恐らくは冬場に獣の巣にでもなっていたのか、奥には僅かな木枝や枯葉が敷き詰められている。 倒れ込むように、中に入り地面にごろりと横になる。はっはっ…と徐々に荒くなる呼吸の合間に、震える唇をそっと動かして愛おしい人の名を呼んだ。 オラガ…と、幾度も名を呼びながらイオリは泣いた。心細さに全身を包まれて、肩が小刻みに震えだした。 「オラガに…愛されたかった」 贄として人間から見棄てられた時点で愛される事など望んではいけなかったのかもしれない。本来なら自分には家族など与えられるものではなかったのだから。 そして、オラガに恋心を抱いたのも自分が愚かだったのだ。父親への敬愛だけで留まっておけば、こんなにも苦しい思いで悩み続ける事もなかった。 全部、自分が悪かったのだ。 「オラ…ガ…」 泣きじゃくりだしたイオリの耳に、不意にガサッと大きな足音が届く。 驚いて目を見開いた先には、一人の人間の男の姿があった。背には大きな籠を背負い、どうやら木の実を取りに山に入って来たらしかった。 「何だ、お前は?」 「あの…」 「ものすごく(そそ)る匂いがするのは、お前か…?」 男の呼吸が酷く荒い事に気付いた瞬間、イオリの背が瞬く間に凍りついた。

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