＊＊＊ 水の湧き出る澄んだ音が耳に届いてイオリはふと意識を取り戻した。どうやら、先ほどの洞穴から離れた場所にいるらしかった。 この身を優しく包み込む大きな腕の感触が心地良くて、無意識に身体を擦り寄せる。 「ん…」 「イオリ、気が付いたか。どこか痛むか？」 大きな掌が優しく何度も頬を撫でる。 堪らなく嬉しいはずなのに、素直に喜べない心苦しさにぎゅっと肩を強ばらせた。 「どうして来たの。僕なんて放っておけば良かったんだ。本当の息子でもないんだから」 「昨夜から様子がおかしかっただろう」 「だって、オラガの傍にいると苦しいんだ。自分の駄目な部分ばかり浮き上がってきて、どんどん自分が嫌いになっていく。ヤトみたいに明るく振る舞えなくて、二人に迷惑ばっかりかけて。どうしても、オラガへの気持ちだって忘れられなくて。こんな気持ちを抱えたままで、これから先も二人の傍で生きるのは辛いから…」 そこまで言って、イオリはずるずると力の入らない身体を引き摺るようにしてオラガの腕の中から這い出ようとする。 「ヤトのところに戻ってあげて。僕はもう大丈夫だから。ここからは一人で生きていけるから」 「イオリ」 「勝手な真似をしてごめんなさい。今まで育ててくださってありがとうございま――」 「おいで」 「…ぃや、あ」 逃げる間もなく、再びオラガの大きな腕の中にすっぽりと抱きとめられると、イオリは肩を震わせだした。 「…怖、い」 「もう大丈夫だ。あの男はのびたまま遠くに置いてきた」 「違う、オラガの傍にいると…気持ちが暴れだすから…怖いんだ。今まで二人には優しくされてきたけど、さっきの男の行為こそが僕に本来与えられるべきものじゃないの？人の世からも外されて、犬神でも男子(おのこ)でもなくて…僕はただの贄だか――んぅ…」 オラガの熱い唇が重なって、イオリは肩をびくりと揺らした。ゆっくりと唇をなぞるように食まれていく。ちゅ、と濡れた音が響くたびにイオリの心臓が甘い悲鳴を上げる。続きを強請るように、イオリは無意識にオラガの首に両腕を絡めた。 「ん…」 「ん。イオリ…」 「ふ、ぅ…」 濡れた唇をそっとこじ開けて、オラガが舌を差し入れてくる。舌先をつつき、絡めて互いに深く吸い合ううちに、イオリの腹の奥から熱い体液がどろりと溢れ出した。魔羅も、自分で扱かずともすでに熱く硬く勃ち始めている。 (ダメだ、オラガから離れなきゃ…。発情が治まらなくなる…) 「んんっ、オラガ…もう離して…」 「離さない。イオリ…愛している」 「な、に…」 「息子としてではなく、心かき乱れるような激情でお前を想っていた。二年前のあの晩からずっと、お前だけを…愛していた」 「オラ、ガ…？」 「こんな思慕(おもい)は間違っていると何度も自分を咎めた、気の迷いだと。お前も、発情して気が昂っていただけだと。だから父子として接する中で、お前の傍に居られるならそれで良かった」 イオリは、その言葉を直ぐには受け止められずに暫し惚けたようになってオラガを見つめ続けていた。