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不器用な家族 3

「ねぇ、オラガ。僕らの慕情は、きっと濁っているね」 「それは俺達の関係が、普通の色恋とは違っているから…ということか?」 「うん。だって、僕はの身体で贄だし。それに――」 「なぁ、イオリ。人というのは、みな誰もが斯様に形式(かたち)に囚われるものなのか。たとえ種族や性別が常とは違ったとしても、ただ、互いに心寄せあって慈しみ寄り添うだけでは駄目なのか」 「え…」 オラガの真っ直ぐな視線に囚われたままで、イオリは口を(つぐ)む。女々しいことばかりを口にして、てっきり怒らせてしまったかと思ったのだが杞憂だった。イオリを見つめたままで、オラガはすぐに相好を崩した。 そうして、自分の腕の中にイオリを抱き寄せると、腕枕をしたままで細く柔らかな髪を幾度も撫でてやる。 「お前を愛おしいと思う俺の心は決して濁ってなどいない。そして、お前の想いも何よりも綺麗だ。余計なことに心を奪われるな。お前は誰の目を気にすることもない。しっかりと胸を張り、自分を誇れ」 「オラガ…」 「大丈夫だ。身も心も、その底無しの不安も全て俺に預けろ。神としてではなく、お前の(つがい)として俺が全てを受け止めるから」 オラガの言葉がこんなにも胸の奥深くまで力強く響くのは彼が犬神だからだろうか。イオリは泣き笑いのような微笑みを浮かべると、オラガの頬に両手でそっと触れながら、優しく唇を重ねた。 「…僕には、オラガとヤトのために何が出来る?傍にいてくれる二人のために僕も支えになりたいと思ってる。その…神様より力も弱いし、泣き虫だし、大したことは出来ないけどさ。でも、こんな僕にも何か役に立てることを見つけたいんだ」 「ならば、ヤトを傍で見守ってやっていてくれ。俺とともに、お前も。ヤトが独りで寂しく迷わないように。あいつも真っ直ぐな(たち)で、少し不器用なところがあるんだ」 「うん、たしかにヤトはちょっぴり不器用だよね」 「お前も人のことは言えないけどな」 「うっ、それは自分でも自覚してるけど。…ふふ。ありがとう、オラガ。僕の…旦那さま」 旦那さま、と頬を染めて消え入りそうな声で告げられた途端、オラガの顔が瞬く間に赤く染まっていく。 番になったとはいえ、聞き慣れない呼び名でイオリに呼ばれると堪らなく気恥ずかしくなる。良い歳をして情けないなどと自嘲気味に思いながらも、オラガは声を潜めてこっそりと口にする。 「イオリ…もう一度、呼んでくれるか?」 「オラガ?」 「違う…その…」 顔を赤く染めてごにょごにょと口篭るオラガを愛おしそうに見つめたままで、イオリは柔らかな笑みを零す。 「オラガ…僕の大好きな旦那さま」 秘密の話を打ち明けるように耳元に口を近付けて囁いたその言葉で、オラガの顔中が朝日のように華やかな(あか)で染まった。

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