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33day・tue 4/13
ホープ君は宣言通り粘り腰の営業のようだ。
あれからずっと無視を決め込んでいるのに、朝晩必ずおはようラインとおやすみラインが入ってくる。
あと、1日1回は日々の報告。
『今日は有明の展示会に来ています。面白い取引先と商談しました。深森さん興味ありそうなので送っておきますね』
商品写真と相手先のURL。
『松濤に美味しい店見つけたのでご紹介します。今までの和食のお店の中で1番かも、機会があれば。できれば一緒に行きたいです』
インスタ映えしそうな写真と店の詳細、地図。
『今日は休みなので少し遠出しました』
湘南の海と美味しそうな生のしらす丼の写真。
見ているから既読は付くだろうが、一度も返信していないのに、全くめげる様子はない。俺の何が気に入ってそうしているのか全く解らない、相手に困ることなんかなさそうなのに……。
同性で、6歳も年上で、仕事しか趣味がなく、気の利いたことも言えない自分になぜそんなに興味を示してくるのか……ちょっと自分で言っててあんまりだとも思うが真実だしな。
か、からだか……!!
いや、あいつだって男は初めてだって言ってたし、男がいいならそれはそれで相手に困らなそうだし……!
『今日新生堂様で打ち合わせがありました。深森さんにお願いしたい案件が出たので午後、帰社したら開発部に顔出します』
ピコンと着信したラインの内容にギクリと体が跳ねた。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「先方がどうしても深森さんにプログラムをお願いしたいというご要望なんです」
今開発部の案件は全てチームで動いている。俺は監修はするが流石に手が回らず全部作ることはしていなかった。
「難しいのは解ってるんですが、リリース時にどうしても深森さんが全てを作ったって謳いたいらしいんです。新生堂の添島 社長は我が社が創業当初人気アプリを連発して作っていたことをよくご存知で、深森さんの大ファンだそうです……そして企画は社長にお願いしたいとのご要望です」
企画原案が全て社長の山田によるものなのもよく知ってるってことか。確かにマニアだ。
「贅沢だな……」
ちょうど開発部に顔を出した専務の八魂 が言葉を挟んだ。
「その代わり大きな案件です」
ゲーム業界で1、2を争う。新生堂の案件。
桐生が企画案と予算概要を見せると八魂は『いいでしょう』とにっこり頷いた。
金だな……こいつ金で動いたな!
まあ仕事だし、受けるのは全然構わないが桐生が取ってきた案件だ。終わるまで、ずっと彼と関わることになるんだろうな……気まずいが仕方がない。
「まあ俺は別にいいけど……」
「ありがとうございます。もう少し詳細詰めたら一度打ち合わせさせて下さい」
桐生は嬉しそうに礼を言うと開発部を後にした。
仕方がない……仕事なんだから。
複雑な気持ちでその背中を見送った。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
その夜もいつものラインが入ってきた。
『今日は面倒な案件を受けていただいてありがとうございました。おかげで俺も先方に顔が立ちます。一緒に仕事するの楽しみにしています。おやすみなさい』
『よろしく』
仕事がらみだ……。
迷いに迷って初めて桐生に返信した。
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