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50day・fri 4/30

 社長を除いた(いると纏まらないので)桐生、八魂、自分の3人でその後、数回の会議と先方へのすり合わせの結果、ほぼ決定になったのは知育アプリだった。  小さな子供でも簡単にプログラムを組めるアプリ。タッチパネルのイラストや記号を直感的に選び、クイズ形式で進んでいくと自然にプログラムが組めているという仕掛け。新生堂の得意とするデバイスノウハウで可愛らしい専用タブレットも作る。出来上がったプログラムは新生堂のロボットや人形などとも連携して動かせるようにする。作ったゲームやアプリなどは専用サイトで申請の上、審査に通ったら販売も可能だ。  この企画の決定に誰よりも興奮しているのは自分だ。  これが完成すれば子供の頃のあの興奮を誰にでも体験してしてもらえるデバイスになる。自分の時よりもずっとハードルが低く、ゲーム感覚で手軽にプログラムを体験してもらえる。これをきっかけに優秀なエンジニアもたくさん生まれるだろう。  最近、桐生からのラインもこの件ばかりになっていた。  デバイスのラフスケッチやゲームの中の案内役のキャラクターのデザイン。フローチャートなど、もちろん今回の企画に参加しているメンバーの共有しているスプレットにも同じ物が入って来るのだが、わざわざ個人ラインにも入れてくる。個人的な感想やちょっとした注釈イラスト『どっちがいいでしょーー?』の質問など。  ずるいな。仕事の質問なら返さなくちゃならないし、そして誰よりこの企画を自分が喜んでいるのをよくわかってる。  桐生の思惑をわかってはいても、心が踊る案件をより良いものにしたくて、自分の出せるもの全てを使ってアイデアを捻り出しては頻繁に返事をしていた。  一緒に仕事をしてよく分かったが、評判通り桐生はとても優秀だった。  先方と現場の意見をすべて擦り合わせるように動いていて、先方との相違がほとんど生まれていない。大抵営業を挟むと本当のところの真意が伝わらず2度、3度手間になることもザラなのに。  こんなにスムーズに無駄なく動く仕事は初めてだった。こちらはただプログラムに集中していればいいだけなのでストレスがほとんどない。  なんでなんだろうな……。  いい男で、若く、対人スキル、仕事の能力も申し分ない……。  自分への執着だけがどうしても腑に落ちなかった。

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