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215day・tue 10/12
スマートウォッチの振動で目を覚ますと覚えのない毛布が自分にかかっていた。
「おはようございます」
桐生が爽やかな顔で自分を覗き込んでいる?
「これどうぞ」
暖かいタオルが目の前に出された。
「よかったら顔拭いてください」
『これもどうぞ』とカフェオレも出てきた。
なんでどっちも暖かいんだ?
まぁいいか……。
蒸しタオルが疲れた目に気持ちいいし、カフェオレもうまい。
こいつ早朝に出社して多分会社にいるだろうと俺の様子を見にきたんだろうな。自分の案件とはいえ、ほんと気ィ使いだな……。
「お疲れ様でした。昨日はすごかったですね。俺惚れ直しました」
「……!!」
爽やかにサラリと言われたセリフに思わず飲んでいたカフェオレをこぼしそうになる。
「あ、すみません! お疲れなのに余計な力使わせちゃって」
「誰のせいだ!」
「俺のせいです」
桐生は全く悪びれる様子もなく笑っている。埋蔵物は俺の虚構なのかも……と最近やっと思えてきたのに、やっぱ違うか……。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「なんでプリントアウトしてチェックするんですか?」
紙媒体に落として目視なんて、アナログすぎるってことだろうな? まあ確かに今時あまりない方法だ。
「チェック方法は色々あるが俺は静的デバッグの方が得意なんだ。ああやって並べて俯瞰して見ると、どこか違和感がある場所が見えてくる。ダメなソースは一見美しく見えてもどこか歪んでいるんだ。なにか欠けていたり、余分なものがついていたり……完璧なソースは何ひとつ無駄がなく、ただ美しい姿をしているはずだからな……」
変態と言われても仕方ないか……美しく並ぶソースを見るとゾクゾクするし、常により完璧な姿を作り上げたいと思っている。
桐生は急に黙ると俺をじっと見ている?
無言で俺のカップを取り上げると机に置いた。
「……?」
なんだ? と思っていると、いきなり頭を掴まれて抑えられるとキスされた! 生々しい……封印した記憶を揺り起こす深いキス……。
「……お前!!」
なんとか、もがいて桐生を突き飛ばした。
「すみません! つい可愛くなっちゃって……」
「はああぁ?」
ついじゃねーーよ!!
ここをどこだと思ってるんだ!!!
つーか今どこに発情するきっかけがあった?
「すみません。すみません。あまり興奮すると体に触りますから」
「誰のせいだ!」
「俺のせいです」
両手を上げて桐生は少しも反省した様子もなく謝る。
ダメだ。この男に何を言ってもダメなんだ!
隙を見せたら負けだ。
「今日中に修正したソースを送るから、新生堂にもう一度デバックをかけるように要請してくれ」
「はい。了解しました」
くらくらする頭を切り替え、なんとか仕事モードに戻して桐生に指示を出した。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「さっちゃんひどいよーー! すっごい可愛いロボにゃん作ってたのにさーー!!」
始業と同時にぶーーという顔を作って山田が開発部にやって来た。
「すみません。でも見つけていただいて大変助かりました。そのままリリースされていたかもと思うとゾッとします」
「昨日会社に泊まったんだってね〜〜お疲れさま! 尚ちゃんから聞いてるよ」
いつの間にか桐生もちゃん付けになっている……。
「私のミスですから」
「新生堂のデバッグとっくに終わってたんでしょ? さっちゃんのせいじゃないよーーうちのチームにも任せれば良かったね〜〜」
「社長の作っていたプログラムはデバイスを頂ければ多分復旧できると思います」
「ホント? やったーー!! りんちゃん生き返る?」
……りんちゃん?
「すっごい可愛いんだよーー真っ白いシャム猫ちゃんでね〜〜すっごい凶暴なんだけど10000回なでなでするとチラ見。20000回でアイコンタクト。30000回でシッポ振ってくれるの〜〜シャーって引っ掻かれたらマイナス1000回」
ドMゲームだな……仲良くなるまで何日かかるんだ?
「深森はこれから修正作業で忙しいんですから、そんなものなおしてる暇はありませんよ!」
専務の八魂が不機嫌そうに社長を迎えにきた。
「今日中に決定していただかなくてはならない事項が10件はあります。とっとと社長室に戻ってください」
リアルりんちゃんに襟首掴まれると山田は『生き返らせてね〜』と叫びつつ連行されていった。
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