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251day・wed 11/17
「すごいですよ!」
友久は自分のパソコンから開発部共有のモニターにニュースを転送して大写しにした。
どの局のお昼のニュースでも新しい新生堂のゲーム機について報道していた。
開発中のプロジェクト名【planC2V】改め、新機種名は【celldi】セルディになった。細胞分裂【Cell division】からの造語だ。
桐生と新生堂の営業でタッグを組み、今回のゲームのリリースにあたり、各所、厳密な緘口令を引き、事前告知をいっさいせず、発売2週間前の今日ゲリラ告知を仕掛けた。
テレビCM一斉放送。検索サーチトップジャック、各新聞、都心電車、地下鉄のラッピング広告。有名ゲームユーチューバーによるレビュー動画配信、都内中心部での宣伝トラック巡回など……。
大手企業の資本と宣伝力は強大だった。それにしても度が過ぎている。絶対新生堂の添島社長の個人的贔屓もあるのだろう。
異例のド派手告知の効果は絶大だった。発表後1時間足らずで事前予約が終了したと新生堂から連絡が入った。
ネットオークションではまだ手に入れてもない物がすでに10倍以上の価格で出品されていた。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
「緘口令も解かれたし、これから本格的なプロモーション始まりますよ」
開発部に顔を出した桐生が差し入れのお菓子をみんなに配りながら楽しそうに報告した。
「営業はこれからが大変だな。頑張れよ」
菓子を頬張りながら一応エールを送る。
「何言ってるんですか? 一緒に頑張りましょーー! 明後日から社長と深森さんの2週間のスケジュールはいただいています」
「……はぁ? 聞いてないぞ!」
思わず喉に詰まるかと思ったシュークリームを慌てて缶コーヒーで流し込む。
「どうせイヤがるから直前まで言わなくていいとの専務からの指示です」
(あいつーー!)
「明後日、金曜日は午前中、Tホテルで新生堂の添島社長と山田社長、深森さんの3名でマスコミ向け、記者会見があります。午後はそのまま同ホテル鳳凰の間で関係者各位を招いてのパーティ。土日は休みですが月曜は経済誌2件、女性誌1件の取材。午後5時から開発者によるリモート公開ゲーム操作方法のレクチャー配信があります。火曜日は……」
桐生の口から滝のように自分の知らない自分のスケジュールが流れ出す。
「あーーもういい! 覚えられないし!」
俺だってまぁ、もっともっと購入者が増えれば嬉しいが、こんなおっさんにキラキラした場所で何喋れって言うんだ。天下の新生堂なんだから可愛いタレントとか使えば良いのに。
「大丈夫ですよ。会見は添島社長が仕切ってくれますし、テレビや雑誌の取材も男性向けの経済系がほとんどです。それにテレビに出たら、ご両親とか喜んでくれるんじゃないですか?」
「そういうものなのか? まあうち母親しかいないけど」
「あ、すみません無神経なこと言って」
「いや別にいいよ。苦労かけてるから、そんな事くらいで喜んでくれるなら出ても良いけど」
久しぶりに秋田にいる母親の顔が浮かんだ。そろそろ連絡しとかないとだな。
「お母さん思いですね」
「父さんが亡くなってから再婚もせず、ずっと働いて俺と妹を育ててくれたからな。今度は楽してもらいたいけど俺たちが独立してもまだ働いてんだよ。いまいち喜ぶものもわかんないし、確かに良いかもな……」
「いいお母さんですね」
「お前のとこはどうなんだよ?」
「うちは普通の家庭ですよ。両親も健在ですし」
「そうか……大事にしろよ」
「そうですね……そうします」
桐生が張り付いたような笑顔で答えた。なんだろう……これ以上は話してはいけない気がする。
「明後日は朝5時に深森さんの家にお迎えにあがります」
「はぁ?」
なんで早朝?
「アイドルみたいに仕上げてもらいますからね」
桐生が楽しそうに、ニヤリと笑った。なんか、嫌な予感しかしない。
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