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288day・fry・12/24
まさかサンタになるとはな……。
引きこもり気味の俺がクリスマスイブに銀座の大手家電量販店のイベント会場でサンタの格好で、サインをさせられている。隣にはノリノリの山田サンタがいた。
この寒い時期、しかもクリスマスイブに早朝から量販店前に行列を作って、そこそこお高いゲーム機を買ってまで俺のサインが欲しいとか謎すぎる……。
サインとか言ってもただ名前書くだけなのがまた恥ずかしい。しかし芸能人でもあるまいし、くるくるっとしたサインを考えるって言うのもなーー。
「ありがとうございます」
ぐるぐると考えながらゲーム機の外箱にサインを書いて渡すと、若い母親が5歳くらいの男の子と一緒に頭を下げた。
「実はこれ2台めなんです。この子がどうしても深森さんに会いたいって言うので……」
「……それはすみませんでした」
決して安い買い物ではない。まさか同じものを買ってまでなんて申し訳なさすぎる。
「いえ! そんなことは全然なくて……実はこの子は声が出せません。思うように行かないのが悔しいのか、物にあたったり、すごく苛立つことが多くて困っていたんですが、このゲームに夢中になってからとっても穏やかになって……本当に本当に感謝しているんです! それをお伝えしたくて!」
男の子は母親の陰から恥ずかしそうに俺を見ていた。
「そうか。ありがとな。大きくなったら一緒にゲーム作ろうな…」
両手を出すと男の子はおずおずと前に出てきて手を出した。その小さな手をぎゅっ…と握ると、にっこりと笑ってくれた。すごく嬉しい……思わず出そうになった涙を堪えた。
来て良かった。自分の仕事が人の役に立つなんて、あの狭い空間にいたらこんなふうに実感できなかった。
・・・・*・・・・*・・・・*・・・・
イベント後、そのまま直帰して桐生のマンションに戻った。風呂に浸かりながら、今日のイベントのことを思い返す。渋々参加したが、本当に楽しかった。あの男の子にも会えたし、テンションの高い女子高生とかもいてビックリしたが、ユーザーのさまざまな生の要望も聞けたし今後の改善や新しいプロジェクトに使えそうな話もたくさんあった。
「手、痛くないですか?」
風呂から上がると桐生が軽い食事を用意してくれていた。
握手しすぎて確かに手が重だるい。握力が全然出ない感じだ。
アイドルって大変な仕事なんだな。なんかこれから見る目が変わりそうだ。
桐生はふいに両手を掴んでキスをしてきた。
「……?」
「俺、今日すげーームカつきました」
「……なんかあったのか?」
「イベント中ずっと俺のものに何べたべた触ってんだよ! って思ってました」
こえーー! そんなこと考えてたのかよ?
お前、俺の横で笑顔で神対応連発してたじゃねーーか!
「大体今回のイベントはお前からの依頼だろ?」
「そうなんですよね〜〜考えたあの日に帰って自分をぶん殴りたいです。ちょっと深森さんメディアに出し過ぎました。今後はなるべく控えます。大体今日絶対お前ゲームしないだろ? って感じのチャラチャラした女子多すぎでしたよね?」
は? そんなことないだろ? 今時ゲームのプレイヤーに男女差なんてないし……そんなマーケティング統計お前が一番解ってるはずだろ?
「お前も聞いてただろ? あの男の子すごい嬉しそうだった。あの子に会えただけでも今回の企画作ってくれて感謝してるよ」
「あの子は特に許せません。握手だけならまだしも深森さん両手で、ぎゅ……ってしてましたよね?」
「お前、俺の話聞いてる?」
「俺の手もぎゅ……ってしてください」
「おま……え。なに子どもと張り合ってんだよ」
「してくださいよーー」
冗談のような本気のような……子どものような、大人のような桐生。その隙のない完璧な姿はものすごく危ういバランスの上に成り立っているじゃないかって気がしてしょうがない……。
「俺も小さい頃、深森さんみたいな大人に会いたかった」
キツく抱きしめられる。
なんだよそれ。桐生お前、いったい何があったんだよ……。
揺さぶられる。お前が持っている危うさが気になって仕方がない。
だけどこれが本当に、愛してる……という感情なのだろうか……。
「お前とはそれどころじゃない事してるだろ……」
解らないことへの罪悪感に苛まれながら、桐生に深く口付けた。
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