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323day・fry 1/28

 年明け、新生堂のデバイス関連の新しいプロジェクトの話が入ってきた。 今度は自社内の企画。スープ部門からの依頼で新生堂のデバイスを使ってスープを運ぶロボットを組み立てるキットを作るらしい。オリジナルプログラムを組み込んだ特別なキットをスープ屋の店頭で販売するのだそうだ。キット限定のプレミアムスープもセットにする。  呼ばれたスープ部門の企画会議。  入ると机を丸く並べてあり、センターに司会の篠崎部長が立っていた。  食品関係だけあって部長をはじめ女性が多い。始まる前から和気あいあいとした雰囲気で盛り上がっている。  男は俺を入れて2人か……。  浮いてるかも……やりにくそう。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「深森部長、スープ部門の会議に参加していただきありがとうございます」    会議終了後、篠崎部長と今回のプロジェクトリーダーの佐々木さんが挨拶にきた。 「わざわざありがとうございます。概要は理解しましたので、こちらで出来る事は進めさせていただきます。途中お尋ねすることがでましたら、またこちらから確認させていただきます」 「あ、あの、深森部長スープ部門にいらっしゃることあまりないですよね。何かの参考になるかも知れませんし、お時間あれば調理場とか、ご案内したいんですが……」  やれやれと帰ろうとすると佐々木さんに声を掛けられた。  社内に調理場なんて不思議な気がしたが、そうだよな。新商品の試作とかを作るんだろう。開発部にも、たまにアンケート用紙と一緒に試作品が回ってくるし。面白そうだな。 「じゃあ、お願いします」 「は、はい!どうぞこちらです」  案内されると、カラフルで楽しそうなキッチンが対で並んでいた。  ライブ配信もすることもあるとかでカメラも設置してある。 「試作品は全てここで作っています」  驚いたことに試作品を作るのは佐々木さんひとりなのだとか。移動車で販売していた彼女のスープに惚れ込んで山田がスカウトしたらしい。というかこの部署事体それで始まった部門だということだ。  『毎日食べたいからー!』と騒いだに違いない山田の顔が浮かぶ。 「今回ロボットを作るキットの付属品ということなので、どんな味にしていいか、ちょっと悩んでいます。色々ご相談させていただければ嬉しいのですが……」 「畑違いなのでお役に立てるかは分かりませんが、俺にできることであれば」 「あ、ありがとうございます!」  佐々木さんは嬉しそうにペコペコと頭を下げた。 「同じ会社の人間なんだから。そんなに遠慮しないでなんでも言ってください」 「はい。ありがとうございます!」  いい子だな。だから美味しいものが作れるんだろうな……。  ・・・・*・・・・*・・・・*・・・・ 「色々波及するよなー」  意見が聞きたかったし、試作品を持って久しぶりに桐生の家に寄った。  イヌ型ロボット【ぬっくん】の胸元にはスープ屋のロゴマークがついている。  これがスープを運んできてくれるなんてきっと子どもは喜ぶだろうな。 「コンカイハ、オレトノシゴトジャナクテザンネンデス」  ロボットをカクカク動かしながら桐生がアテレコした。 「何してんだよ」  らしからぬ子供っぽい仕草に思わず笑ってしまう。  試作でもらったスープを桐生が温めて出してくれた。 「お前も飲んでみてくれよ」 「美味しいですね」 「そーなんだよなーー美味しいけど、ロボットに合うってなんだよ? って感じ。お前の方が舌が肥えてるんだから、なんかアドバイスとかない?」 「プレミアムっていう位だからよっぽど違いがないとがっかりさせちゃいそうですよね」 「だよなーー」 「味については予算ギリギリまでいい素材を使うしかない気がします。ロボットっぽいって無理ですし。それ以外のパッケージや見せ方で変えて行くしかないかな……中身についてはイヌ型に切った素材を入れるとかスープ自体をキャラクターに近い色にするとか」 「そっかーー! さすがだなー。やっと佐々木さんに返信できる」  全然感想を返せてなかったし、さっそく連絡しておこうと手に取った携帯を桐生に取り上げられた。 「時間外労働ですよ」 「あ、ああ……そうだよな」  何か、怒ってるの? 桐生が不機嫌そうに俺を見ていた。  ……そうか。そうだな。久しぶりに会ったのに仕事の話ばかりだった。  しかし仕事以外の話って何話したらいいんだ?  咄嗟に思いつかない。  ダメだ。これで過去の恋愛はほとんどダメになったのに。  怖い。俺ってほんとつまらない男だよな。   「ごめん。俺、いろいろ無神経だよな。面白い話も出来ないし」 「すみません。そんな顔しないでください。怒ってるわけじゃないんです。新しい企画で深森さん楽しそうだったから、ちょっと嫉妬しました。ごめんなさい」  桐生はちゃんと自分の気持ちを言葉にして伝えてくれている。 「ちょっと不安そうな顔してましたね。俺があなたのことを嫌いになると思ったから?」  見透かしたような言葉。恥ずかしくて、否定したいが……すべきじゃないよな……ちゃんと言葉に、態度に出さなければ関係って終わってしまうんだ。今まで散々学んできたはずだ。精一杯の気持ちで頷くと桐生は一変して嬉しそうな顔をした。ああ、やっぱりちゃんと伝えなくちゃダメなんだ。 「俺ね。深森さんに何も求めてないですよ。俺のこと好きでいてくれれば他は何もいらないんです」

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